乳がんと心のケア 大西秀樹先生


7月30日、第1回横浜タウンホールミーティング(主催 BCネットワーク、湘南記念病院)が開催されました。

そこでの大西秀樹先生(埼玉医科大学国際医療センター)の講演『乳がんと心のケア』がジャムズネット東京により動画編集されています。素晴らしい講演です! 是非ご覧ください。 

講演内容は、

がん医療における「うつ病」の見落とし 

 [うつ病 症状のまとめ] 
#身体症状
    身体がだるい
    眠れない
    食欲がない
 #精神症状
    気分が落ち込む
    意欲が出ない
    何をして良いかわからない

 [うつ病の診断基準]
1or2のどちらかは必須、9項目中5項目以上が2週間認められる
 1.抑うつ気分*
 2.興味・喜びの低下*
 3.睡眠障害
 4.食欲低下
 5.焦燥感・制止
 6.倦怠感
 7.自責感
 8.思考・集中力の低下
 9.希死念慮

 [ある乳がん患者さんのケース]
 乳がん手術、放射線治療、化学療法後、 体調不良を主訴に来院。
 うつ病の診断。
 (患者さんへの説明)
 1.うつ病であること。
 2.服薬の必要性。
 3.休養の必要性。
 (処方) ミアセリン (10)1T 1x寝る前
 (まとめ) 治療により、身体症状が消失。 体調不良は、うつ病(心の病)の身体症状だった。

[練習問題]
 最近、身体が***である。 検査では問題がない。 心の問題の可能性がある→○ 

 私は眠れるからうつ病ではない→×

 まめいがひどい。 耳鼻科では問題がない。 心の問題の可能性がある→○

詳細は、
ジャムズネット東京 http://jamsnettokyo.org/mc_sitebuilder__index

6.死を意識して生きると、人生が豊かになる 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

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ヒルル:人はいつか死ぬのですが、私たちは日々の生活の中で「死」を意識することを敢えてしませんね。やっぱり自分や家族が死ぬのをイメージしたくないですから。
大西先生:そうですね。でも 人生は不条理 なので、いろいろなことが起こるんです。一生懸命に真面目に生きていても、辛い ことは起こります。でも人間は辛いことを乗り越えて 成長 して行くのです。そういうことを頭の隅っこに置いておくと、辛いことに対峙する 心構え ができるかもしれません。難しいことですが、たまに復唱するのはいいかもしれません。

ヒルル:そうですね。いつも考えている必要はないと思いますが、自分の人生をどういう風にクローズしたいのか、ということを頭の隅に置いておくと、自分の生き方が決まるかもしれませんね。
大西先生:死を見つめて生きる と、命は有限、命の尊さ、愛しさ に気付きます。そうすると 人生が豊か になるんです。なぜなら、物事の優先順位 がはっきりし、自分にとって本当に大切なもの が見えてくるからです。本当に大切なものを見分けることができたとき に、人生は豊かでシンプルで迷いのないものになる と思います。

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ライター: 湊 敦子 (Atsuko MINATO)   プロフィール
外資系IT企業で約20年間「働きマン」のように働いていた矢先、43歳の時に右乳がんを健康診断にて発見される。Stage I で、乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検、放射線治療を経て、現在ホルモン療法中。ホルモン療法が一因で、子宮筋腫が急激に巨大化し、3年後に子宮全摘。病気や離婚など、他人から見ると不運や不幸のオンパレードのような人生で、妹によると「病気のスタンプラリー」に参加しているらしいが、本人はうつ状態も克服し、いたって元気。落ち込んでいる友人に「私の人生と交換するぅ?」と問いかけて励ますのが得意。趣味はドラムとフラワーアレンジメント、真面目な主治医を笑わせること。そして最近はストイックな登山。  ブログ:http://ameblo.jp/acco7/

撮影協力: beacon  東京都渋谷区渋谷1-2-5   03-6418-0077

5.周りの人に出来ること 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:ご遺族の方に対して、周囲の人ができることは何でしょうか?
大西先生:言葉をかけることより、そばにいること、冷静に話を聞くことでしょうか。それから、お節介にならない程度の親切な行為、例えば お惣菜 など持って訪ねるなども、ご遺族の気持ちを慰める と思います。
してはいけないことは、 騒ぎ立てたり責めること 。「 ~した方がいい 」「 ~しなさい 」「 めそめそしちゃダメ 」など、 自分がそうあってほしい という理想の姿を 相手に押し付ける ことです。「 あなたの気持ちはよくわかる 」も NG 。その気持ちは ご遺族以外の方にわかるわけがない のです。

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ヒルル:ご遺族が責められたりすることがあるのですか?
大西先生:実は「 なじられた 」と 傷ついて 、 遺族外来 に来られる方は多いのです。お葬式での花輪の位置、席順、「 どうして早く病院に連れて行かなかったのか 」など、さまざまなことで なじられる ようです。なじる側 が単純に悪いとも限りません。もしかしたらその人にとっても大切な人で、死別の悲しみが ゆがんだ形 ででてきているのかもしれないからです。しかし なじる 方の中には、 自分のプライドや関心事 の方が、遺族の悲しみに優先していることもあります。そのようなことが引き金で親族間の付き合いがまったくなくなることもあります。隠れてお墓参りに行かなければならない人もいます。人間関係と人の気持ちは、非常に複雑。 死 が新たな苦しみと試練 をもたらすことがあるということもまた事実です。



4.亡くなった方との関係の再構築が必要 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:実際にはどんなタイミングで気付かれるんでしょうか?
大西先生:あるご主人を亡くしたご婦人は、夫がいなくて悲しくて仕方がない、そして次に夫がいないから恥ずかしいという気持ちになり、犬の散歩も買い物も帽子を深くかぶって早朝か深夜、人と会わない生活を続けていました。しかしある時、娘さんに「お父さんはそんなみじめな生き方だった?悲しいのは自分が悲しいだけでしょ?お父さんは立派に病気と闘って死んだ」と言われて目から鱗が落ちたそうです。またある時は、泣いていても笑っていても同じように時は過ぎていく、ということに気付いたそうです。また、別の患者さんは、 Il Divo の美しい広がりのある音楽を聴いて、夫がいなくなったという考え方から、夫は 広い世界のどこかにいる のかも?という考え方へ変わっていきました。

ヒルル:何かに気付くことで、物事を別の角度から見ることができるようになるんですね。
大西先生:そうですね。でも配偶者を亡くすと、自分の人生も終わった、自分の人生には意味がないと頑なに思ってしまうので、立ち直るのは容易ではないんです。時間をかけて 意味の再構成 をしていくことが必要です。 意味のない人生などない ということに気付いて、亡くなった方との 新しい関係性を構築 する、ということです。亡くなった方が自分を後押ししてくれるとか、つながっている というという感覚を抱くことができるんです。

ヒルル:いつか悲しい思い出が違う形に変わる日がくるのでしょうか?
大西先生:娘さんを 卵巣がん で亡くされて 10年 遺族外来 に通院されている方も、いまだに亡くなった子供と同世代の人を見るたびに「 娘が生きていれば・・・ 」と思い出してしまうそうです。でも片付けられなかった娘さんの部屋も、娘さんに送る「 天国への宅急便 」と思って片付けることができるようになりました。 悲しみを完全に昇華する ことは難しいですが、 悲惨な思い出 を少しずついい思い出に変えていくことはできると思います。一足飛びにはいきません。何年もかけて、行きつ戻りつしながらです。 そのお手伝い をするのが、私たちの仕事だと思っています。

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3.いろいろな考え方があるという「気付き」が大切 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

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ヒルル:遺族外来 には、患者さんはどのような症状を訴えてこられますか?
大西先生:慢性的な睡眠障害、罪悪感、絶望感、抑うつ などの症状を訴えられる方が多いです。遠くの地から来る方もいらっしゃいます。なぜなら、遺族の診察を行っているところがあまりないのです。遺族を亡くした病院には行けない、その駅で降りられない といった症状があるために 私たちの病院まで来る人もいます。初診時は四割の方が うつ病 に罹患しています。

ヒルル:大西先生はそのようなご遺族にどのように対応されているのですか?
大西先生:まずお話を聞いて、問題点を明らかにします。 話す という作業は、ご自分の整理です。話すだけ でも気持ちが楽になる効果があります。中立的な立場で、決して批判しないでお話を伺い、適宜「こうするといいかも」といったアドバイスやご提案を行うこともあります。これを 支持的精神療法 といいます。また「話す」という意味では、ご遺族同士が会話できる機会も設けます。同じ気持ちを抱える方たち同士で話し合って気持ちを共有できることは非常に有効です。それから、出来る援助をする、ということをお伝えします。

ヒルル:出来る援助というのは、具体的にはどんなことでしょうか?
大西先生:まず問題点を整理します。 うつ病 がある場合には、その治療を優先します。経済的な問題はソーシャルワーカーと、相続などの問題は法律家と連絡を取り、一つずつ問題を片付けていきます。それから心理的介入といって、「 認知行動療法 」を活用し、患者さんが様々な考え方ができるようにガイドを行うこともあります。

ヒルル:考え方を変える方法について具体的に教えていただけますか?
大西先生:グループで 認知行動療法 を行う時、例えば「『明日、東京地方は大雨です』という文章から、あなたは何を連想しますか?」と質問してみます。「スーツが濡れる」と言う人もいれば、「作物がよく育つ」と言う人もいます。こうして、何を連想するかは人によって違うこと、いろいろな考え方のパターンがある ということに気付いてもらいます。この「 気付き 」が大切です。

2.配偶者との死別は最大のストレス 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:そもそも、がん患者のみならず、がん患者をサポートする家族も、がん告知の時点から強いストレスにさらされますね。
大西先生:家族は、大切な人を失ってしまうかもしれないという悲しみ(予期悲嘆)を抱えながら、ケアギバー(caregiver)として献身的に振る舞い、自分を抑えがちです。悲しいのに患者には笑顔を向けるという二つの矛盾する立場が、家族の心を余計に つらく します。それ以外にも、経済的な問題(一家の稼ぎ手がいなくなる)や子供の問題(お母さんが患者の場合)などの社会的問題を抱えることになります。また家族の中に潜在していた問題が急に顕在化したり、摩擦が生じたりすることもあります。がん患者の 3-4 割が何らかの精神疾患を併発しますが、実はそのご家族も 1-4 割の割合で 適応障害 や うつ病 などの精神疾患を併発します(調査によって差があります)。そしてご家族が受ける精神的ダメージの大きさも、がん患者のそれとほぼ同程度なんです。一般的に介護している人の免疫機能が低下し、死亡率は上昇すると言われています。ご家族が「第二の患者」と言われる所以です。このようなご家族の心のケアを、家族外来 で行っています。

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ヒルル:そして近親者、特に配偶者が亡くなられたりすると、さらに事態は深刻になるんですね。
大西先生:アメリカで行われた人生のさまざまな場面における ストレス度 の調査では、配偶者の死を最大の 100 と数値化しています(図1)。配偶者との死別は、何にも増してストレス度が高いんですね。また54歳以上の男性の調査では、配偶者、パートナーとの死別後 6カ月以内の死亡率が、配偶者のいる場合に比較して約 40% 上昇することがわかっています。また死別後1年以内に 抑うつの兆候 を呈する未亡人は 47% にのぼり、夫がいる女性の8%と比較すると有意に高いことが知られています。そして配偶者との死別が、高齢者における うつ病 発症の最大の 危険因子 と言われています。ここには「子供との死別」という項目はありませんが、そのストレス度と悲しみは配偶者の死に勝るとも劣らないと考えられます。

ホームズとレイの「社会的再適応評価尺度」
  ライフイベント 生活変化単位値
  配偶者の死 100
  離婚 73
  別居 65
  刑務所などへの勾留、服役 63
  近親者の死 63
  自分のけがや病気 53
  結婚 50
  解雇、失業 47
  夫婦の和解(よりを戻す) 45
  退職や引退 45
  家族が健康を害する 44
  妊娠 40
  性生活がうまくいかない 39
  新しく家族のメンバーが増える 39
  仕事上の変更(異動など) 39
  経済状態の変化 38
  親友の死 37
  職種換えまたは転職 36
  夫婦の口論の回数が変わる 35
  1万ドル以上の借金 31


1.一番厳しい状況に置かれた方々の典型といえる がん患者とそのご家族、ご遺族の心のケアを行う 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:今日は悲しい話題ですが、愛する家族を亡くした方々がどうやったら悲しみと向き合えるのか、大西先生に伺っていきたいと思います。まず先生のご専門を教えていただけますか?
大西先生:私はがん患者とそのご家族、そしてご遺族の心のケアをする 精神腫瘍医 です。病院では「家族外来」や「遺族外来」を設けて、患者さんの他に、そのご家族、ご遺族の心のケアにあたっています。

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ヒルル:大西先生はこれまで多くのがん患者、そのご家族、ご遺族と向き合われてらっしゃったのですね。なぜがん患者をご専門になさっているのでしょうか?
大西先生:日本人の二人に一人ががんに罹患し、三人に一人ががんで死にます。そして、がん は日本人の死亡者数で最も多い病気です。「がん=死」というイメージがあることから、がん告知はその方の人生を根底から覆します。人生計画、家族計画 がすべてご破算になってしまうんです。がんがもたらす痛みは、身体、心、社会的、霊的、すべての局面に及びます。がん患者の家族も患者同様の心の痛みを経験します。配偶者と死別後 うつ病 になったり、後を追うように亡くなられる方 も少なくないんです。ですからがん患者とその家族は、ある意味一番厳しい状況に置かれた方々の典型と言うことができます。ここでの経験が、他の病気や事故、事件で家族を失った方のケアにも役に立つのではないかと考えています。


愛する人を失った悲しみとどう向き合ったらよいのだろう 大西秀樹先生 インタビュー

(BY Atsuko MINATO)

本記事によせられたメッセージ 
  "がんを患った方、看病をしている方、大切な人を失った方、こうした方々に寄り添って「新たな気付き」へ導いてくれるのが大西秀樹先生とそのチームです。 不安・悲嘆の中にあり出口の無い部屋に閉じこもっておられる方、勇気を出して大西先生のドアを叩いてみてはいかがでしょうか。きっと新たな未来が開けてくるものと思います。"
仲本光一先生(外務省医務官)
  "重いテーマですが、わかりやすく、優しいトーンでまとめられていて、とても素敵な記事だと思いました! 梅シロップやご自宅の菜園で採れた むかご を紹介しているところも、大西先生のお人柄が伝わってくるようで、いいですね!"
川上祥子氏(NPO法人キャンサーネットジャパン 広報担当理事)


こどもをなくして立ち直れません  投稿者 匿名希望 無職 27歳  2月におなかのこどもをなくしてから、ずっと立ち直れずにいます。毎日生きているのが辛いです。特に生理前になると、起きていられなくなり、ずっとヘ゛ット゛で泣いています。仕事もやめて引っ越しました。体もこころもすっかり弱り、誰ともほとんど接することができません。一生こんな気持ちでいるのは辛いですが、もうどうしようもありません。月日が経っても悲しみは募る一方です。 このお返事 投稿者 アヲ 学生 17歳 私も去年の12月に癌で母を亡くしました。お気持ちお察しします。私も母と過ごした日々を思い出す度に涙してしまいます。けれども、母の死を通して気付いたことが一つあります。それは自分の命が尊いということです。母が生涯をかけて育ててくれた私の命はなんと尊いものでしょうか。自分が死ねばいい、と思うことは今でもあります。それでも私は生き続けたいです。命の尊さを知った者は生きねばならないのだと思います。天国のお子さんもあなたが悲しむ姿を見たくないはずです。その悲しみは消えることはないものだけど、道は開けるはずです。10歳も年下なのに偉そうにすみません。どうか頑張って下さい。
2010年10月、ヒルルに 匿名希望さん、アヲさん のお二人から投稿がよせられました。 愛する家族を亡くした方々がどうやったら悲しみと向き合えるのか、これから埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科教授 大西秀樹先生に伺っていきたいと思います。

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大西秀樹(おおにし ひでき)先生
埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科教授