予期不安, 不安障害, PTSD 関東地方での心のケア | 保坂隆先生

qa_DrHOSAKA.jpg予期不安, 不安障害, PTSD- 関東地方での心のケア -聖路加国際病院 精神腫瘍科
保坂 隆 Monday, April 25, 2011

先日来,何回か関西以西を訪れた際に,自分を含めた関東に住んでいる者の,東北大震災以後の心の状態について気付いたことがあります。この差異について考察することは,今を含めた今後の心のケアに有益だろうと思っています。

まずは,全国的なことですが,多くの人が津波の映像が繰り返し放映されたのを見てしまったことにより,後に述べるような不安感や恐怖感の基盤を形成してしまいました。阪神大震災の「静止画」から,東日本大震災の「動画」へというビジュアル刺激の変化は,その場にいなくても,「人が死にそうな場面に遭遇する」という「トラウマ(心的外傷)の必要条件」を満たしてしまったのです。

よくショックを受けた場合に,「トラウマ」という言葉を簡単に使いますが,精神医学では,自分や人が死に遭遇するほどのショックを受けた場合をトラウマと言います。戦争とか,大きな交通事故とか,殺人やレイプとか,それに火山の噴火や地震や津波のような天災などによって,死に遭遇した場合を言います。今度の東日本大震災では,被災者の場合にはもちろん正しい意味でトラウマと言うことができます。一方で,その他の国民の多くも,津波が襲ってきて,次々に車や家を飲み込んでいき,逃げ惑う人がいたりして,最終的にはほぼ壊滅状態になった土地を,否が応でも見せつけられました。今回の報道にあるように,ほぼリアルタイムで臨場感のある恐怖の場面を繰り返し見せられることは,多くの人にとって,トラウマ類似体験になったというのが第1のポイントです。

第2に,関東ではその後余震が続いていて,「次は東京か?」という不安感・恐怖感につながってしまいました。また,今回は余震だけでなく他のプレートも刺激され,いくつかの震源からの地震が毎日のように続いています。「だんだん東京に近づいている」と感じている方も少なくありません。このように,一人の時や,夜間に地震や余震を体験することで,「余震」と「津波の映像」が直結してしまったわけなのです。

そのため,第3として,余震がない時でも浮動感・めまい・動悸を感じるようになったのです。私もそうですが,時に「ねえ,いま揺れてない?」と過敏になって,周囲に質問するようになってしまった方がたくさんいます。これから起きることを想像して心配になってしまうことを「予期不安」と言いますが,いま関東では「予期不安」が蔓延していると言えます。予期不安は,ある意味では,警戒心とか準備状態にあるという意味で,天災への備えにもなっているのですが,やや程度を越えてしまっているように思えます。今,関東を訪れた方に聞くと,「関東は(関東の人?)は節電のためだけでなく,暗くなった」とおっしゃいます。どこかで気持ちの切り替えが必要になってきます。

最後に,この「予期不安」は固定化すると,やがては「不安障害」になっていく可能性が高い点があげられます。PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉が,震災の後にはよく使われますが,被災者は別として,他の地方に住んでいる方にとっては,むしろこの不安障害への発展のほうが多いのではないでしょうか?その意味で,「予期不安」「不安障害」に発展させないというのが,現時点での「心のケア」の目標ということになります。
 
Takashi_HOSAKA_MD.jpg保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加国際病院精神腫瘍科、聖路加看護大学院 臨床教授
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
 詳しくは、
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詳しくは、保坂隆先生の著書『 災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21) 』を読んでみてください。