東日本大震災が阪神大震災と違うところ 保坂隆先生

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東日本大震災が阪神大震災と違うところ
聖路加国際病院 精神腫瘍科
保坂 隆 Monday, April 18, 2011


宮城県警が17日発表した東日本大震災の犠牲者の年代や死因をまとめた調査によると,犠牲者の死因の約95%は水死であり,犠牲者のほとんどが津波にのみ込まれて死亡したという実態が報道されました。阪神大震災で犠牲になった人の死因の約8割は圧死だったことを考えると,地震の影響もその発生した場所によって明らかに異なることがわかったのです。 ここで,被災者の心のケアという視点から,今回の震災が阪神大震災と違うところを考えてみたいと思います。

まずは被災地のアクセスの悪さがあげられます。全国の医療者が被災直後から被災地区を目指しましたが,今回の被災地の多くは非常にアクセスが悪く,医療者や医療資材の搬送が遅れてしまった点です。被災地が広範囲に及んでいたことも関係があります。慢性的に薬を飲まなければならない心の病気を持った患者さんたちにとっては,非常に苦しかった時期だったろうと思います。

 第2に被災地の総合病院には精神科がなかったことがあげられます。阪神大震災の教訓から,かなり早くから心のケアの必要性が指摘され,精神医療の専門家も被災地を目指しましたが,被災者の医療を支えとしてしばしばTVにも出てくる石巻日赤病院は,残念ながら,もともと精神科がなかった総合病院です。日本総合病院精神医学会の調べによると,今回の被災地の総合病院のほとんどに精神科は設置されていなかったり,少なくとも常勤医師はいなかったことがわかっています。今回のような災害では,初期の医療の場は救急医療であり,当然それは総合病院なのです。しかし,そのような総合病院に精神科医がいなかったことは初期対応だけでなく,その後の心のケアの中心的な役割を欠くことを意味しているわけです。今後このような震災がたびたび起こるわけではありませんが,災害はいつどのような形でやってくるかわかりません。せめて,地域の基幹病院には精神科医の常勤を義務づけていただきたいものです。

 第3に,阪神大震災では家屋や高速道路が倒壊している映像をテレビや新聞でたくさん見ましたが,今回の震災では津波が襲ってきて,次々に車や家を飲み込んでいき,逃げ惑う人がいたりして,最終的にはほぼ壊滅状態になった土地を否が応でも見せつけられました。報道の在り方にも問題があると思っていますが,静止画と動画の報道の違いは,遠隔地で画面だけでしか地震と津波を経験していない多くの人にとっても,トラウマ(心的外傷)になってしまうくらいのリアルな体験をしたことになります。

 最後に,原発がらみの強い不安が,重なってしまったことです。特に放射能漏れの影響を強く受ける東日本に住んでいる方に,不安や恐怖を与えています。日本を離れ近づこうとしない外国人がたくさんいることを知ると,国民すべてが差別や偏見を受けてしまっています。原発の近くの農作物や牛乳や海産物などへの風評被害になっていることや,疎開した子供たちへのいじめの遠因になっていることを知ると,国内で差別や偏見を助長している場合ではないと思ってしまいます。

※詳しくは、保坂隆先生の著書『 災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21) 』を読んでみてください。
 

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保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加国際病院精神腫瘍科、聖路加看護大学院 臨床教授
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
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