がん告知する?しない? 保坂隆先生 interview_3

精神腫瘍医 保坂 先生 インタビュー (BY Atsuko MINATO)

  がん告知する?しない? 保坂隆先生 interview_3

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ヒルル:患者の心の動きを知った上で、家族としてどうサポートしていったらいいのかを、時系列で考えてみたいと思いますがお手伝いいただけますか?まず家族が最初にぶち当たる壁が、患者本人に病名を告知すべきかどうか、というところだと思います。

保坂先生:がん告知について少しお話をしましょう。日本での患者ご本人へのがん告知率は1990年代に30%でしたが、20093月の厚生労働省の報告によると病名告知は65.9%、余命告知は30.1%でした。(出典:厚生労働科学研究費補助金「わが国の尊厳死に関する研究」平成18年度総括・分担研究報告書(主任研究者:松島英介)

医師も医学部で告知の仕方を学んだことはなかったし、まず家族に伝えるのが普通で、本人に対する告知は家族が「主人は気が小さいから伝えないで」といった状況を優先する消極的な告知時代が長く続いてきました。

 

ヒルル:自分の病気のことなのに、患者本人に伝えられていなかったんですね。

保坂先生:それによって患者と家族の状態がどうなるかというと、家族は患者に秘密を持つことになり、その秘密を守るために家族は嘘をつき続けなくてはならなくなる。「患者・家族同盟」にヒビが入りますね(図1)。医師も患者に対して嘘をつかなくてはいけないので、患者と医師との信頼関係も危ういものになります。患者は、医者が嘘をついている、家族が本当のことを話してくれないことに必ず気付きます。そして疑心暗鬼になり、医師や家族を信頼できなくなります。

告知を家族だけにすると、患者・家族同盟にヒビが入る

図1 告知を家族だけにすると、患者・家族同盟にヒビが入る

 

ヒルル:告知しないことにまつわる患者と家族のストレスは大きそうだし、悪循環ですね。しかも必ず嘘はバレる・・・

保坂先生:どう告知するかは、医師の価値観と患者の家族関係という二つの変数で微妙に変化します。しかし本来自分の病名は本人が知るべき「第一級の個人情報」で、患者本人ではなくて家族が先に知るということはおかしなことです。医師も家族に知らせただけで責任を果たしたと思うべきではないと思います。それは「悪いニュース」を伝えるというストレスや責任を家族に押し付けているのと同じです。

 

ヒルル:でも告知された時の患者さんが被る精神的ダメージは大きいですよね。

保坂先生:1990年代半ばに日本とアメリカの医師に対して、がんの告知で患者の自殺願望が強くなると思うか、という意識調査をしました。1960年代後半から100%告知を実践しているアメリカの医師は、「ときどきあるが、そんなことは滅多にない」と思っています(図2)。

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図2 がんの告知で患者の自殺願望が強くなると思うか?医師への調査

 

私も告知しないことが患者を精神的ダメージから守っているのかと疑問に思い、耳鼻科系のがん患者に調査をしたところ(図3)、告知されてもされなくても、精神状態に大差はないということがわかりました。つまり真実を告げないことが、患者の気持ちを楽にしたり、よい精神状態に持っていくことはないということです。

告知しないことが患者の気持ちを楽にするわけではない

図3 告知しないことが患者の気持ちを楽にするわけではない

 

 患者はどのようにがんを受け入れていくのか?保坂隆先生 interview_4 につづく