震災後の心のケア②【グリーフケア】 | 保坂隆先生

2010sm_01.gif 震災後の心のケア② 【グリーフケア】
聖路加国際病院精神腫瘍科 保坂 隆
May 9, 2011
震災後の心のケアとして最も重要なものが,この【グリーフケア】です。

○グリーフケア グリーフとは【悲嘆】のことで,死による喪失から生じる深い心の苦しみのことです。被災地のすべての方は,その家族や近所の方や友人を亡くした方だと思います。人はこの悲嘆に際して,次の4つの課題があると言われています。

① 喪失の現実を受け入れる 
② 悲嘆を苦痛なものとして受け入れる
③ 変化した環境に適応する。 
④ 死者に注いでいた多量のエネルギーを新たな関係に向け変える。

 当然ですが,①②の部分が当面の課題になります。これを乗り越えていくのが,話を聞いてくれる相手だったり,共有してくれる仲間です。医療者やボランティアは傾聴はできても,共有はできません。被災者同士の話し合いが有効なのはこのためです。

 また別の学者は悲嘆のステップを,急性期(初期,ショックの段階:1~2週間),中期(死者に心がとらわれる段階:数週間~1年),回復期(人生が継続していることを認識し始める時期)と分けています。急性期とは,死別直後から数週間までのショックの段階のことであり,中期とはこれに続いて,死者に心がとらわれている時期です。多くの被災者はこの急性期にあるか,中期に入りかけている時期かと思われます。

 今回のような突然死や予期しない死であれば,急性期のショックはさらに大きなものになります。非現実的な感覚で無力感に苛まれ,誰かに怒りを向けたいような気持ちにもなります。中期に入りかけた方は,暗く沈んでいる時期に入っているわけですから,今こそ傾聴したり,そっとしておいてほしいという方のことは温かく見守ってあげることが大切になってきます。

 一方,これらに加えて忘れてはならないのが,【サバイバー・ギルト(生存者の罪悪感)】です。大きな災害で生き残った人が「自分だけが生き残っていいのか?」とか「周囲の人間を助けられなかった自分が生き残っていいのか?」という 罪悪感 です。


 この【サバイバー・ギルト】に悩む方に対しては,

① この災害は予測不能で,生き残った人でも大きな喪失をしていること
② 災害発生時にも人は「怒り」が生じ,そのはけ口がない時には自分に向かうこと
③ できることはすべてやったんだということ

などを理解していただき,

④ 人はどんな喪失感に打ちひしがれていても,前に向かって進まなければいけないこと
⑤ 具体的な支援・復興活動に加わること

などが大切だ,というような対応をしていきます。

 
○東日本大震災の特徴  グリーフは,近親者や知人の死を知ったところから始まります。しかし,今回の震災の特徴は未だに1万人を超える方が行方不明だということです。つまり,グリーフがスタートできない,諦めきれない,という気持ちでいる被災者の方がたくさんいらっしゃるということです。

 この方たちの心のケアがきわめて難しい。
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「緊急寄稿 東日本大震災によせて」その他の 保坂隆先生 記事

震災後の心のケア① | 保坂隆先生

2010sm_01.gif 震災後の心のケア①
聖路加国際病院精神腫瘍科 保坂 隆
May 2, 2011
震災後かなり早い時期から「心のケア」の必要性が専門家から指摘され,実際に,彼らは被災地に向かっていきました。本報では,この「心のケア」とはいったい何を,どのようにやったらいいのかを述べてみたいと思います。 

 【被災地での心のケア】

○精神医療の継続  まず,それまで被災地で精神疾患の治療をしていた患者さんの継続した治療を提供しなければいけませんでした。このとき他の医療物資と同様に,アクセスの悪さも関係して,必要な薬物が手に入りにくかったことは周知の通りです。このような震災の際には,精神疾患が悪化することが多いので,それに対する手当が急務でした。うつ病で治療を受けていた方が,震災をきっかけに興奮状態から躁状態に転ずることも少なくないことも指摘されています。この医療者の迅速な対応は,阪神大震災から得た教訓であったことは疑う余地がありません。

○傾聴  震災直後の恐怖感を和らげるためには,言葉として表現すること(言語化)が大切で「(心理的)デブリーフィング」とも呼ばれる。自信が体験した状況を正しく認識し,自分が経験している不安や恐怖感が正常反応であることを確認する作業です。医療者だけでなく,ボランティアの方にもやっていただける作業だと思います。

○グループ療法のファシリテーター  この傾聴の仕方としてグループ療法があります。同じ体験をした方たちが,10人くらいが集まって,集団で話をすることは不安や恐怖の緩和に役立つばかりでなく,情報交換や,ストレス対処のための生活の知恵なども共有できるからです。がん患者さんのグループ療法などで,その効果は実証されています。ただし,これが井戸端会議的な雑談にならないように仕切る役が必要になり,その役のことをファシリテーターと呼びます。できれば医療者がファシリテーターには適役です。できれば,同じメンバーで数回続けると凝集性や団結力が高まり,その後の相互サポート(話しかけたり,情報を流したり,助け合ったり,など)が自然にできるようになっていきます。

○薬物療法  震災直後だけでなく,不眠や不安を呈する方はたくさんいらっしゃいます。抵抗感はあるかもしれませんが,最も確実な対処方法は睡眠導入剤や抗不安薬を一時的に服用することです。この時に注意しなければならないのは,飲酒で対処することは禁忌です。このような状況下では容易に依存症に発展してしまうからです。

気晴らしコーピング  目の前の現実の状況を解決するための対処様式(コーピング)はもちろん大事ですが,時には気晴らしも必要なもの。体操をしたり,散歩したり,歌を歌ったり,などの気晴らしがこの時期には必要で,ボランティアにできる心のケアです。
 震災後の心のケア②【グリーフケア】に続く>>>
Takashi_HOSAKA_MD.jpg保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加国際病院精神腫瘍科、聖路加看護大学院 臨床教授
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
 詳しくは、
  ・先生紹介

詳しくは、保坂隆先生の著書『 災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21) 』を読んでみてください。
 
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予期不安, 不安障害, PTSD 関東地方での心のケア | 保坂隆先生

qa_DrHOSAKA.jpg予期不安, 不安障害, PTSD- 関東地方での心のケア -聖路加国際病院 精神腫瘍科
保坂 隆 Monday, April 25, 2011

先日来,何回か関西以西を訪れた際に,自分を含めた関東に住んでいる者の,東北大震災以後の心の状態について気付いたことがあります。この差異について考察することは,今を含めた今後の心のケアに有益だろうと思っています。

まずは,全国的なことですが,多くの人が津波の映像が繰り返し放映されたのを見てしまったことにより,後に述べるような不安感や恐怖感の基盤を形成してしまいました。阪神大震災の「静止画」から,東日本大震災の「動画」へというビジュアル刺激の変化は,その場にいなくても,「人が死にそうな場面に遭遇する」という「トラウマ(心的外傷)の必要条件」を満たしてしまったのです。

よくショックを受けた場合に,「トラウマ」という言葉を簡単に使いますが,精神医学では,自分や人が死に遭遇するほどのショックを受けた場合をトラウマと言います。戦争とか,大きな交通事故とか,殺人やレイプとか,それに火山の噴火や地震や津波のような天災などによって,死に遭遇した場合を言います。今度の東日本大震災では,被災者の場合にはもちろん正しい意味でトラウマと言うことができます。一方で,その他の国民の多くも,津波が襲ってきて,次々に車や家を飲み込んでいき,逃げ惑う人がいたりして,最終的にはほぼ壊滅状態になった土地を,否が応でも見せつけられました。今回の報道にあるように,ほぼリアルタイムで臨場感のある恐怖の場面を繰り返し見せられることは,多くの人にとって,トラウマ類似体験になったというのが第1のポイントです。

第2に,関東ではその後余震が続いていて,「次は東京か?」という不安感・恐怖感につながってしまいました。また,今回は余震だけでなく他のプレートも刺激され,いくつかの震源からの地震が毎日のように続いています。「だんだん東京に近づいている」と感じている方も少なくありません。このように,一人の時や,夜間に地震や余震を体験することで,「余震」と「津波の映像」が直結してしまったわけなのです。

そのため,第3として,余震がない時でも浮動感・めまい・動悸を感じるようになったのです。私もそうですが,時に「ねえ,いま揺れてない?」と過敏になって,周囲に質問するようになってしまった方がたくさんいます。これから起きることを想像して心配になってしまうことを「予期不安」と言いますが,いま関東では「予期不安」が蔓延していると言えます。予期不安は,ある意味では,警戒心とか準備状態にあるという意味で,天災への備えにもなっているのですが,やや程度を越えてしまっているように思えます。今,関東を訪れた方に聞くと,「関東は(関東の人?)は節電のためだけでなく,暗くなった」とおっしゃいます。どこかで気持ちの切り替えが必要になってきます。

最後に,この「予期不安」は固定化すると,やがては「不安障害」になっていく可能性が高い点があげられます。PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉が,震災の後にはよく使われますが,被災者は別として,他の地方に住んでいる方にとっては,むしろこの不安障害への発展のほうが多いのではないでしょうか?その意味で,「予期不安」「不安障害」に発展させないというのが,現時点での「心のケア」の目標ということになります。
 
Takashi_HOSAKA_MD.jpg保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加国際病院精神腫瘍科、聖路加看護大学院 臨床教授
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
 詳しくは、
  ・先生紹介

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・急性ストレス障害とサバイバー・ギルトを乗り越えて
・ 震災後の心のケア①
・震災後 子供の心のケアに役立つ本『世界はどうなっちゃうの?』アメリカ心理学協会
・配偶者との死別は最大のストレス
・ご遺族の方に対して、周囲の人ができることは何でしょうか?
詳しくは、保坂隆先生の著書『 災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21) 』を読んでみてください。
 

東日本大震災が阪神大震災と違うところ 保坂隆先生

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東日本大震災が阪神大震災と違うところ
聖路加国際病院 精神腫瘍科
保坂 隆 Monday, April 18, 2011


宮城県警が17日発表した東日本大震災の犠牲者の年代や死因をまとめた調査によると,犠牲者の死因の約95%は水死であり,犠牲者のほとんどが津波にのみ込まれて死亡したという実態が報道されました。阪神大震災で犠牲になった人の死因の約8割は圧死だったことを考えると,地震の影響もその発生した場所によって明らかに異なることがわかったのです。 ここで,被災者の心のケアという視点から,今回の震災が阪神大震災と違うところを考えてみたいと思います。

まずは被災地のアクセスの悪さがあげられます。全国の医療者が被災直後から被災地区を目指しましたが,今回の被災地の多くは非常にアクセスが悪く,医療者や医療資材の搬送が遅れてしまった点です。被災地が広範囲に及んでいたことも関係があります。慢性的に薬を飲まなければならない心の病気を持った患者さんたちにとっては,非常に苦しかった時期だったろうと思います。

 第2に被災地の総合病院には精神科がなかったことがあげられます。阪神大震災の教訓から,かなり早くから心のケアの必要性が指摘され,精神医療の専門家も被災地を目指しましたが,被災者の医療を支えとしてしばしばTVにも出てくる石巻日赤病院は,残念ながら,もともと精神科がなかった総合病院です。日本総合病院精神医学会の調べによると,今回の被災地の総合病院のほとんどに精神科は設置されていなかったり,少なくとも常勤医師はいなかったことがわかっています。今回のような災害では,初期の医療の場は救急医療であり,当然それは総合病院なのです。しかし,そのような総合病院に精神科医がいなかったことは初期対応だけでなく,その後の心のケアの中心的な役割を欠くことを意味しているわけです。今後このような震災がたびたび起こるわけではありませんが,災害はいつどのような形でやってくるかわかりません。せめて,地域の基幹病院には精神科医の常勤を義務づけていただきたいものです。

 第3に,阪神大震災では家屋や高速道路が倒壊している映像をテレビや新聞でたくさん見ましたが,今回の震災では津波が襲ってきて,次々に車や家を飲み込んでいき,逃げ惑う人がいたりして,最終的にはほぼ壊滅状態になった土地を否が応でも見せつけられました。報道の在り方にも問題があると思っていますが,静止画と動画の報道の違いは,遠隔地で画面だけでしか地震と津波を経験していない多くの人にとっても,トラウマ(心的外傷)になってしまうくらいのリアルな体験をしたことになります。

 最後に,原発がらみの強い不安が,重なってしまったことです。特に放射能漏れの影響を強く受ける東日本に住んでいる方に,不安や恐怖を与えています。日本を離れ近づこうとしない外国人がたくさんいることを知ると,国民すべてが差別や偏見を受けてしまっています。原発の近くの農作物や牛乳や海産物などへの風評被害になっていることや,疎開した子供たちへのいじめの遠因になっていることを知ると,国内で差別や偏見を助長している場合ではないと思ってしまいます。

※詳しくは、保坂隆先生の著書『 災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21) 』を読んでみてください。
 

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保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加国際病院精神腫瘍科、聖路加看護大学院 臨床教授
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
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「ストレス関連死」を防げ 保坂隆先生

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「ストレス関連死」を防げ
聖路加国際病院 精神腫瘍科
聖路加看護大学院 臨床教授
保坂 隆 Sunday, April 3, 2011

「ストレス関連死」の報道を見るたびに,国民の誰もが悲痛な思いをいだきます。「ストレス関連死」とは,地震や津波の後の被災地における生活のストレスや,不十分な医療環境のなかで,血圧が高くなって脳血管障害や,心臓疾患で亡くなったり,寒さの中で低体温になったり,定期的に受けなければいけない血液透析などが受けられなくなり亡くなってしまうことを言います。しかし,地震や津波を生き抜いた方たちが,その後のストレスその他で亡くなってはいけません。いえ,亡くならせるような対策ではいけません。

メディアの報道も,「よく睡眠をとって,ストレスを避けるようにして・・」というような当たり前の提言で終わってしまっています。しかし,ゆっくり休めない劣悪な環境が3週間を過ぎた今も続いているということのほうが問題なのです。また,医療者チームらも,薬の供給の悪さや医療環境の不十分さと戦いながら,懸命の活動を続けています。しかし,薬や点滴などの医療品が少ない状況では限界があり,「普通の医療を施せないで救えないことが悔しいんです」と涙する入りに姿もテレビに映っていました。さらに,健康を損ねそうなハイリスクの高齢者たちを,近隣の病院や施設へ入所させようとしても,既に入所者であふれている様子が報じられたりしています。

阪神淡路や中越の経験から,ボランティアの医療者らが全国各地から早期に現地入りし,避難所を回診したり被災者を診察しているところが報道されています。しかし,やはり過去の震災とは大きく違っていることがあります。それは,今回の被災地の交通アクセスの悪さと,寒さだろうと思います。交通アクセスの悪さは医療品や食料の供給不足につながり,ガソリン不足もそれに拍車をかけています。一方で,3月の被災地の寒さは,灯油不足と相まって避難所にいても「低体温症」を招いています。

私は,被災地に人や物資が集まるだけではなく,ハイリスクの高齢者たちが 被災地を離れる という方向性が少なすぎるのではないかと思っています。つまり,中高年者を含む比較的若い方たちが,ボランティアや医療者の力を借りて,被災地の復興を支えていく一方で,高齢者は各都道府県に一時的に移住するべきだと思っています。暖かく栄養も十分に摂れるような環境で健康を取り戻していただき,メディアやインターネットを通じ故郷が復興していく様子を見て,電話などで残された家族とも連絡をするというような仕組みができないものかと,いつも歯がゆく思っています。一部では既に行われていることですが,これをもっとダイナミックに推し進めていくべきでしょう。当然,故郷や家族を離れるわけですから,知っている高齢者同士が一緒のグループになって,同じ受け入れ先に行かなければいけません。

このように,被災地へと人や物資が集まるという方向性だけでなく,逆に被災にあった高齢者をはじめハイリスクの方々を遠方全国へ一時的に移住するというダイナミックな「双方向性の動き」が今の時点で望まれているのです。

「緊急寄稿 東日本大震災によせて」その他の 保坂隆先生 記事
 

Takashi_HOSAKA_MD.jpg
保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加国際病院精神腫瘍科、聖路加看護大学院 臨床教授
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
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東北大震災によせて - 急性ストレス障害とサバイバー・ギルトを乗り越えて - 保坂隆先生

急性ストレス障害, サバイバー・ギルト, 東北大震災, 保坂隆, 聖路加国際病院 精神腫瘍科
緊急寄稿 東北地方太平洋沖地震によせて
 ー 急性ストレス障害 と サバイバー・ギルト を乗り越えて ー
聖路加国際病院 精神腫瘍科
保坂 隆 March 27, 2011

 震災後2週間が経過しました。依然として続いている余震に放射能漏れも加わり,国民すべてが不安状態に陥っていますが,そろそろ「心のケア」が必要な段階になってきています。

❒ 災害時1ヶ月以内に起こる「急性ストレス障害」 

 もともと精神疾患をもった患者さんたちにとっては,薬が不足していたり通院が困難になったりという点が問題になっています。 また,これまで精神疾患をもっていない方にとっても,この時期には精神的に不安定になってきています。死に関わる今回の地震や津波の被害に遭遇したり目撃するような大きな出来事の後で不安・不眠・興奮・恐怖が生じたり,逆に現実感が消失したり茫然自失となるような精神状態は「急性ストレス障害」と言います。大きな出来事の1ヶ月以内の場合に診断できますので,地震から2週間のこの時期は,まさにたくさんの「急性ストレス障害」の患者さんがいらっしゃることになります。 これは被災地の方々に限ったことではなく,TVを通じてリアルな被害状況を目の当たりにしたり,実際に余震が続いている東日本全体に広く見られることになります。

 ❒ 可能ならば恐怖心が残る場所から遠ざかること

 そして可能なら,恐怖感が残る場所からできるだけ遠ざかることです。町を失った方たちが集団で他の町に移動している場合には,故郷を離れる寂しさはあっても,恐怖感は軽減していきます。そして,恐怖心を呼び戻すような報道番組はもう見たり聞いたりしないということも効果があります。2週間経った今も情報を集めることは大切ですが,そろそろ報道番組から離れてもいい時期だろうと思います。

 ❒ 生きていることに感謝

 この「急性ストレス障害」に加えて,「サバイバー・ギルト(生存者の罪悪感)」も生じます。大きな災害で生き残った人が「自分だけが生き残っていいのか?」とか「周囲の人間を助けられなかった自分が生き残っていいのか?」という罪悪感です。このサバイバー・ギルトに悩む方に対しては,次のことをよく考えて理解していただきたいと思います。

 ①この災害は予測不能で,生き残った人でも大きな喪失をしていること
 ②災害発生時にも人は「怒り」が生じ,そのはけ口がない時には自分に向かうこと

 そして大切なことは、

 ③人は、どんな喪失感に打ちひしがれていても,前に向かって進まなければいけないこと
 ④具体的な支援・復興活動に加わること

 です。是非、皆さんの心に刻んでいただけたらと思います。


 人は生きている限り諦めてはいけません。 生きていることに感謝して,ご自分の日常生活をしっかりと守った上で、自分も復興活動に参加していくことができると思うことで,罪悪感は少なくなっていきます。 いま日本中の人が,自分たちができることを通して被災地の復興を願っています。 支援する側の人たちは,被災地の方たちの元気な姿を見て,触れて,逆に元気をいただいています。 助け合うことの大切さを教えてくださった皆さんをずっと応援していきます。


詳しくは、保坂隆先生の著書『 災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21) 』を読んでみてください。
 

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保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加看護大学院 臨床教授、聖路加国際病院精神腫瘍科
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
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  ・先生紹介

患者も家族も、まず自分を知ることが大事! 保坂隆先生 interview_7

精神腫瘍医 保坂 隆先生インタビュー (BY Atsuko MINATO)

 患者も家族も、まず自分を知ることが大事!   保坂隆先生 interview_7


ヒルル:実際に患者や家族がパニックから脱出して病気に前向きに取り組むために、どんな治療をされているのですか?

保坂先生: 認知行動療法  が一番役に立っています。これは、悲観的な考えに陥っている状態をカウンセリングなどで修正する治療法です。例えば落ち込みの原因に関して、

・状況:嫌な出来事が起きた時はどんな時か、状況を分析してみる。

・思考:それについて自分はどう考えたか?

・根拠:なぜそう考えたか?

という順序を追って物事を考え、その考え方を修正する、つまり別の考え方ができるようにガイドします。自分を第三人称化 して、その自分に何とアドバイスするかを考えてみてもらったりします。患者も家族も、できるだけ一つの考えにとらわれず、多様な考えを持てることが重要なんです。

がん患者のうつ病に対しての 認知行動療法 はまだ確立されておらず試行錯誤で行っていますが、効果を感じています。また 認知行動療法 の延長としての イメージ療法 や リラクセーション も役立ちます。具体的に言うと、例えば 抗ガン剤 による 予期嘔吐 (まだ薬を投与していないのに考えただけで吐いてしまう)には 吐き気止め も効かないことがありますが、上記の療法や、催眠療法 を使って止めることができます。

 

ヒルル:薬を使わなくてもできる ことがこんなにあるんですね。

保坂先生:そうですね。患者や家族が うつ状態 になった時、なぜそうなったのか、原因は何か、どういう状況の時に必ずそうなるのかなど、問題の根本に気付くようにガイドします。それがわかれば、悪いニュース や ストレス に心構えをして対処していくことができるからです。患者も家族も、自分のことを分析して、自分をよく知ることが大事なんです。

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ヒルル:最後にヒルル読者へのメッセージをいただけますか?

On Oct 13, 2010, at 3:59 pm, 
 精神腫瘍医 保坂 隆 (聖路加国際病院) sent a message;

ヒルル読者の皆様へ

グループ療法 という療法が、私の サイコオンコロジー の仕事の中で大きな仕事だったんですが、グループ療法 で成功するのは 99.9% は 女性の患者 なんです。 男性の患者、たとえば 前立腺がん や 肺がん の患者が集まって グループ療法 が成功した、という論文はないんですよ。

また アルコール依存症 においての グループ療法 の成功率はたったの 3割、グループの力は強大 と言えども、その程度なんです。

ところが 乳がん患者 の グループ療法 は 120%力 を引き出せる。

女性は 助けあったり、お互いをケアする のに適した人たち なんだろうと、思っています。

女性のもともとの心の強さ を感じます。 

ヒルル のようなサイトに来れば 助け合える、相手を助ける役割が自分にもある、そういう考え方を持てる というのはすばらしいことだと思います。

敬意を表します。

 

 やってみよう! 2分でできるリラクセーションの方法

1.目をつぶり、(全行程、目をつぶって行う)、腹式呼吸を行う

2.両手の拳を握って力を入れ、息を吐きながら拳を解く

3.肩を上げ、息を吐きながらストンと力を抜く

4.全身の筋肉に力を入れ、息を吐きながら力を抜く

5.リラックスした姿勢で、「両手がだんだん温かくなる」とゆっくり何度も自分に言い聞かせる

6.今までに行った楽しいあるいは美しい旅行の風景などをいくつか思い浮かべてみる

7.1から6までゆっくり数える、そして7で目を開ける

注)血圧が下がっているので、急に立ち上がらないこと!

 

「実際に保坂先生のコンサルテーションを受けて」  湊 敦子

保坂隆先生にお話をうかがって、この3年間で乳がんと子宮全摘を経験した私がうつ状態になったのは、決して珍しいことではないのだと思いました。

私が患者として保坂先生の部屋のドアをノックしたのは、乳がんの主治医である聖路加国際病院の矢形寛先生が子宮全摘後にうつ状態に陥った私の精神状態を心配して、私を保坂先生のところへ送ったことによります。

強い精神力を自負していた私も、矢形先生に「女性にとって胸や子宮を失ったり傷つけられたりということは、相当な精神的ダメージを伴う。ナメちゃいけない」と背中を押され、受診することになりました。(聖路加国際病院のブレストセンターではチーム医療に力を入れており、ブレストセンター内にリエゾン精神科医(他の診療科と連携しながら患者のメンタル面をケアすることでチーム医療に貢献する精神科医)を配置しています。)

 

保坂先生のもとで、自分を客観的に分析し、自分の性格、癖、傾向を再認識しました。その上でストレス・コーピング(ストレスへの対処の仕方)やリラクセーションの仕方を具体的に学びました。それは自分のことをよく知り、自分をコントロールし、人生に対して前を向かせる作業に他なりません。

また薬に依存せずに自分自身を取り戻すことができることを教えてくださいました。乳がんのホルモン療法で服用しているタモキシフェン クエン酸塩(TAM)と、今年日本でも発売開始されたSNRI(抗うつ剤)は同じ代謝酵素が関与するため、TAMの抗腫瘍効果が阻害される可能性を否定できませんでした。そこでTAMを活かすために早々にSNRIからの脱薬を試み、他の心療内科では2年間服用が必要と言われていたところを3ヶ月の服用のみで脱薬に成功しました。

 

実際の診療は一回30分(頻度は隔週~1カ月、状態によって違う)で、仲良しのオジサンのところへ遊びに行くようなピクニック気分で出かけます。本や資料を読んだりリサーチの宿題が出るので、そのことについて感じたことを話し合ったりします。保坂先生は読んだりリサーチしたことを私の人生と重ね合わせ、自分で積極的に考えさせ、気付かせてくれます。このようにして私の人生の傍らに寄り添い、暗闇から脱出する手助けをしてくださいました。

 

保坂先生のコンサルテーションを受けるには

保坂先生は現在聖路加国際病院のブレストセンターのリエゾン精神科医なので、コンサルテーションを受けるには、聖路加国際病院のブレストセンター/オンコロジーセンターの患者であることが前提となります。しかし今後はさまざまな相談を受けられるように、診療体制を検討中とのこと。  後註: 2013年2月現在、可能とのことです。「当院通院中の患者さんだけに限りませんし、がん患者さんだけでなく、家族の方でもお気軽に受診してください」聖路加国際病院 精神腫瘍科

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敦子 Atsuko MINATO    プロフィール

外資系IT企業で約20年間「働きマン」のように働いていた矢先、43歳の時に右乳がんを健康診断にて発見される。Stage I で、乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検、放射線治療を経て、現在ホルモン療法中。ホルモン療法が一因で、子宮筋腫が急激に巨大化し、3年後に子宮全摘。病気や離婚など、他人から見ると不運や不幸のオンパレードのような人生で、妹によると「病気のスタンプラリー」に参加しているらしいが、本人はうつ状態も克服し、いたって元気。落ち込んでいる友人に「私の人生と交換するぅ?」と問いかけて励ますのが得意。趣味はドラムとフラワーアレンジメント、真面目な主治医を笑わせること。そして最近はストイックな登山。

ブログ:http://ameblo.jp/acco7/


保坂隆先生ご自身による 著作セレクション(2013年2月)

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患者の家族はどうすればよいのか? 保坂隆先生 interview_6

精神腫瘍医 保坂 隆先生インタビュー (BY Atsuko MINATO)

 患者の家族はどうすればよいのか?保坂隆先生 interview_6


ヒルル:家族の絆が最後まで強まっていくのは、素敵なことですね。

保坂先生:素敵なだけじゃなくて、本当に効果があるんですよ。家族、友人、同僚など患者をとりまく人々から得られるサポートをソーシャル・サポートと言いますが、このソーシャル・サポートのある/なし、量の多さで病気の予後が変わるんです。家族との強い絆や患者同士の支え合いはがんの経過にいい影響を与えますし、主治医とフランクに話せたりソーシャル・サポートのあるがん患者の方が、ない患者より長生きします。家族の思いやりや愛情が、がん患者を助けるんです。

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ヒルル:でも家族も精神的にも肉体的にも大変な状況ですよね。家族はどうしたいいんでしょう?

保坂先生:そうですね。意外にもがん患者の方が元気で、家族の方がまいっているケースも多いんですよ。一般的に家族の病気を受け入れるスピードは、患者より遅いんです。「私よりも主人をサポートしてあげて下さい。かなりショックを受けてるみたいですから」とおっしゃる乳がん患者が多かったりします。患者の家族は心配と疲労で、免疫機能は低下するし、病気やうつ病になる可能性が高くなっています。そこで患者同様、家族にもリラクセーションを取り入れてもらっています。これは腹式呼吸、筋弛緩法、自律訓練とイメージ療法を使った方法で、自分で自律神経をある程度コントロールすることで、リラックスし、落ち着きを得、よく眠れるようになります。ストレスには許容量があります。許容量を超えて爆発しないよう、ストレスの量を減らしたり、許容量を増やしたり、発散チャンネルを増やしたり、工夫することができます。

 

 患者も家族も、まず自分を知ることが大事  保坂隆先生 interview_7  につづく



カウンセリングの「五種の神器」保坂隆先生 interview_5

精神腫瘍医 保坂 隆先生インタビュー (BY Atsuko MINATO)

 カウンセリングの「五種の神器」保坂隆先生 interview_5


ヒルル:患者の気持ちが少しわかったところで、先生が具体的になさっている患者や家族へのカウンセリングの現場をちょっとのぞかせて下さい。

保坂先生:では、私の診察室からご案内しましょうか。診察室には丸いテーブルがあって、どこにおかけいただいてもいいようになっています。昔は四角いテーブルだったんですが、これだと医療者vs患者・家族同盟といった対峙した形になり緊張感が高まってしまうので、丸にしてもらいました。これで医療者と患者と家族が等しい距離で話すことができ、医療者・患者・家族が一体となって病気に立ち向かう環境が出来上がります(図5)。

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図5 医療者・患者・家族が一体となる治療環境の構築

 

ちなみに受診のパターンですが、患者だけが来るケースが8割、患者と家族が一緒に来られるケースが2割です。僕は患者に秘密を持つのはよくないと思っているので、家族だけに話すことはしません。丸テーブルに加えて、パソコン、カレンダー、カルテ、ティッシュペーパーが、僕の「五種の神器」かな?

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ヒルル:パソコンで何をするんですか?

保坂先生:これまで 30 分という短い診療時間の中で、どうやったら 問題解決型 の診療ができるのか考えてきました。それで患者や家族の話をよく聴くという従来の 傾聴共感型 のカウンセリングに加え、問題を解決するプロセスを患者や家族と共有していくスタイルに変更しました。解決したいことに関して、パソコンで一緒に検索して読んだら役に立つページを一緒に探したりします。つまり情報の集め方を教えたり、解決に至る方法を患者や家族が見つけることができるようガイドしていく、というスタイルです。患者や家族がそのページを読んできてくれれば、次回の診療が一歩前に進むでしょ?

 

ヒルル:そうなんですか!ちょっとした工夫なのに、患者や家族の取り組み方はずいぶん変わりますよね。他の神器の使い方は?

保坂先生:カルテは電子カルテに書けない患者の情報、カレンダーは次回の予約日を決めるため、ティッシュペーパーは患者や家族の 涙 のためです。

 

ヒルル:やっぱり泣かれますよね。

保坂先生:そうですね。でも私は 患者や家族が一緒に泣くことは悪いことではない と思うんですよ。昔、ある 30 代のご婦人が定期健診を受けていたにもかかわらず、ある日突然肺がんが見つかり、余命 3カ月を宣告されました。呼吸器内科の医者が告知をするとき、僕も一緒に立ち合いました。告知の時ご主人も一緒で、この日は病室に一緒に泊って行かれました。僕は二人が病室から飛び降りはしまいかと心配で、朝方に様子を見に伺いました。おそらく一睡もせずに朝まで一緒に泣いていたと思われるお二人の目は真っ赤でしたが、お二人は残された時間を大切に過ごす決意を固めたように見えました。ご主人だけに告知していたら、ご主人は家で一人で泣くことになっただろう と思います。一人で泣かず、家族と一緒に泣くことで、より家族の絆も強まっていくように思います。

 


 患者の家族はどうすればよいのか?保坂隆先生 interview_6 につづく



患者はどのようにがんを受け入れていくのか?保坂隆先生interview_4

精神腫瘍医 保坂 先生 インタビュー (BY Atsuko MINATO)

 患者はどのようにがんを受け入れていくのか?保坂隆先生 interview_4


ヒルル:告知された患者の心の内を家族も知りたいと思うのですが、教えていただけますか。

保坂先生:根源には「怒り」があります。「どうして自分が、がんにならなければいけないんだ!」という怒りです。この怒りが内側に向くか外側に向くかで、表現が変わってきます。内側に向く場合は、「あの時ああすればよかった」「早く受診すればよかった」といった自責や後悔の念にさいなまれます。外側に向くと、「あの医者はどうして早く見つけてくれなかったんだ」「酒やたばこをやっている夫の方ががんにならないで、どうして私が!?」といった周囲への八つ当たりとなって表れます。

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ヒルル:それでも自分の病気を受け入れて前向きに取り組んでいくことができるんでしょうか?

保坂先生:できますよ。キューブラー・ロスという精神科医が、人間がどのように死を受け入れていくかに関して「受容モデル」を発表しています(図4)。人間は自分に悪いことが起こった時、否認、怒り、取引、抑うつ、受容といったプロセスを経て、それを受け入れていくと言っています。僕はこの受容への道は階段状に進むのではなく、波線型、つまり受容と否認の間を行ったり来たりしながら受け入れていくと思っています。しかしながら、中にはうまく適応していけない人もいます。がん患者の30-40%は適応障害やうつ病など、何らかの精神疾患を併発すると言われているんです。

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図4 受容への道は行ったり来たりしながら

 

ヒルル:ずいぶん多くの方が、がんになったことで同時に精神的にダメージを受けるんですね。

保坂先生:そうですね。落ち込んでしまうと、本来のがんの治療に差し支えることがあるので、そこの部分を何とかするのが私の仕事です。しかし主治医や家族はなかなか患者のうつ状態に気付きにくいものなんです。最初に申し上げたように、主治医も家族も「まさか自分の患者や家族が精神科的な病気にかかっているはずがない」とか、「がんなんだからこの程度の落ち込みは仕方ない」と考えがちなんです。だから患者は自分が少し変だなと思ったら、かならず主治医に伝えてもらうことが大事な第一歩なんです。そうすれば心の専門家がケアにあたることができるんです。

 

  カウンセリングの「五種の神器」保坂隆先生interview5  につづく



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