「卵巣がんはどのように診断されるの?」 「チョコレート嚢腫ってがんになる?」


(第3回 がん研有明病院 瀧澤憲先生インタビュー)

■診断が難しい、組織診断できない"がん"

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 卵巣がんの診断は、腫瘍マーカー、MRIやCTなどの一般的ながん検査に加え、子宮内腔の細胞を採取する細胞診などによって判断されます。

 経膣超音波検査(エコー)の精度が高まったことで、かなりの確率で卵巣がんであることが確かめられるようになりましたが、実は手術をして組織を病理検査するまでは、がんかどうかはわからないのです。

 卵巣に直接針を刺して細胞を抜き取ることができれば、手術前にがんかどうかを診断できるのですが、それは"やってはいけないこと"とされています。まだ破裂していない卵巣腫瘍に針を指した場合、針穴から内容物や細胞がこぼれてしまう危険があるからです。
卵巣がんの検査でありながら、子宮内腔の細胞診断をするのはそのためです。卵巣のがんや腹水は、卵管を通って子宮内に入り込んでくるので、がんがある程度大きい場合、1/3以上は、この子宮内腔細胞診でわかります。

このように卵巣がんの診断・早期発見はとても難しく、「たぶん卵巣がんであろう」という「疑診」のもとで手術・治療が行われます。

心配しないでいいですよ 再発・転移卵巣がん,瀧澤 憲 (著),真興交易医書出版部

真興交易医書出版部
心配しないでいいですよ 再発・転移卵巣がん
瀧澤 憲 (著)

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 ■チョコレート嚢腫は、必ず定期観察を!

 近年「チョコレート嚢腫ががん化する確率」や「どの段階で手術をしたら予防できるのか」を調査する試みがはじまっていますが、まだはっきりとした調査結果はでていません。

 完全な証明はされていませんが、現在のところ5cm以上のチョコレート嚢腫が10年ほどの間にがん化する確率は、5%以上ではないかといわれています。

 チョコレート嚢腫は日本人女性の14~15人にひとり、不妊症の人の3人にひとりが患っている病気です。チョコレート嚢腫自体は良性の卵巣腫瘍ですが、年数を経て将来的に、類内膜(るいないまく)腺がんや明細胞(めいさいぼう)がんに変化する危険性を秘めています。
 

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 現在の婦人科の方針では、予防の意味でも、ある程度の大きさ(5~7cm位)になった場合は、早い段階で手術するのが好ましいと考えています。

 卵巣がん発生のピークは50歳台ですから、閉経後にチョコレート嚢腫らしいものが見つかれば、大きくなっていない場合でも切除した方がいいでしょう。

 しかし、これから結婚・出産を控える若い世代にとっては、非常にデリケートな問題ですし、出産後にチョコレート嚢腫がなくなるケースもないわけではありません。すぐに手術を考える必要はありませんが、

大きくなっていないか、定期的な経過観察は怠らないようにしてください。


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「卵巣がんにはどんな種類があるの?」 「年齢によって症状は違うの?」

(第2回 がん研有明病院 瀧澤憲先生インタビュー)

■症状が表れにくい「漿液性(しょうえきせい)腺がん」

卵巣を構成する組織は、

  1. 卵巣の表面をおおっている表層上皮細胞と間質細胞
  2. 卵細胞の周囲を取り巻く卵細胞固有の間質細胞
  3. 卵巣皮質の中にある卵細胞
  4. 卵細胞を結合する組織、血管

の4つに分けられ、これらに発生する悪性腫瘍が「卵巣がん」です。

takizawa_03.jpg病理学的に細かくわけると20種類以上に分類されますが、卵巣がんの約80%は、(1)に発生する表層上皮性・間質性腫瘍と呼ばれるものです。

そのうちの半数ほどを占めるのが漿液性(しょうえきせい)腺がんで、多くは50歳以上の閉経後に発症します。

「おなかが張る、しこりを感じる」「急にウエスト周囲が太くなった」といったサインはあるものの、自覚症状が乏しいケースがほとんどで、ある程度進行して大きくならないと検査でも見つかりません。

何の前触れもなく、突発的に発症して、急激に大きくなるため、定期健診などがあまり意味をなさないのも特徴です。

■良性の卵巣疾患が、がん化するケースも

一方、粘液性(ねんえきせい)腺がん、類内膜(るいないまく)腺がん、明細胞(めいさいぼう)腺がんなどには"前駆病変(ぜんくびょうへん)"という、いわゆる予兆があります。

粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ)、類内膜腺腫(るいないまくせんしゅ=チョコレート嚢腫)、子宮内膜症といった良性の病気が、10年、20年の歳月を経て、良性から境界悪性腫瘍へ、さらに悪性腫瘍化へとたどるケースが多いです。

若いうちに月経異常や不正出血などで婦人科を訪れ、このような診断がくだされたら、ぜひ定期的に経過をチェックしてください

もちろん、良性のうちなら妊娠・出産も可能ですし、万が一卵巣がんになっても、妊娠を強く希望される方には、2つある卵巣のひとつを残すなどの細心の注意を払った手術が行われます。

子育ても一段落し、月経も終わった年代と、これから子供を授かろうとする年代では、治療方針は大きく異なります。病状の進行状況とリスクを考慮したうえで、どこまで機能を残すことが可能なのか、主治医とよく相談するといいでしょう

 

※次回の瀧澤先生インタビュー(「卵巣がんはどのように診断されるの?」「チョコレート嚢腫ってがんになる?」)は平成22年1月27日アップです。


「卵巣がんになりやすい人は?」 「母が卵巣がんなので、遺伝が心配!」

(第1回 がん研有明病院 瀧澤憲先生インタビュー)

■女性のライフスタイルの変化が原因!?

takizawa_01.jpg卵巣がんは、30年前より死亡数も病気にかかる方の数も3倍近くに、40年前より約4倍にも増えています。その原因ははっきりとはわかっていませんが、疫学調査(卵巣がん患者を対象にしたアンケート調査)から、女性のライフスタイルやライフサイクルの変化が大きく影響しているのではないかと考えられています。

発生要因として考えられるのは、

  1. 妊娠・分娩回数の減少と妊娠開始年齢の高齢化
  2. 高たんぱく・高脂肪の食事
  3. 女性の高学歴化、社会進出によるストレス

です。

(1)では、低用量ピルを服用していた人に卵巣がんが少ないことから、逆に排卵の回数が多いと癌になりやすいと考えられています。

(2)は、欧米での罹患率の高さから、欧米型の食事も要因とされます。

(3)は、女性の社会的責任が増えるにともない、ストレスも増加していることです。

強いストレスは卵巣の機能を低下させ、「生理が止まる」、「月経周期が乱れる」といった症状を招く原因になります。このような症状がある場合は、早めに婦人科を訪れてください。

■卵巣がんのうち9割以上は突発性

不妊治療で使われる排卵誘発剤が、卵巣がんを発生させやすいかどうかはまだ研究段階で、これまでのところは悪影響を与えるという確かなデータは得られていません。

一般的に、卵巣がんのうち9割以上は突発的な発生であると考えられています。

遺伝はまれですが、BRCA1、BRCA2という "がん抑制遺伝子" に異常があると、卵巣がんや乳がんを発症する確率が高くなることがわかっており、この遺伝子の異常は遺伝することがあります。
この遺伝子異常があるかないかを調べることもでき、BRCA1の遺伝子異常があった場合、80歳までに卵巣がんを発症する生涯危険率は60%あるといわれ、数字的には高い確率です。一方BRCA2の遺伝子異常の場合は、リスクはその1/3程度で、「必ずがんになる」というわけではありません。

takizawa_02.jpg血縁者に卵巣がん患者がいるからといって過剰に心配する必要はありませんが、逆をいえば、卵巣がんは卵巣がある女性ならば誰でもが発症する可能性を秘めているともいえます。
少しでも異常を感じたら早めに受診する、良性の卵巣嚢腫などがあれば定期的に観察するなどを、ぜひ心がけてください。

 

※次回の瀧澤先生インタビューは、こちら→「「卵巣がんにはどんな種類があるの?」「年齢によって症状は違うの?」