瀧澤憲先生の『「子宮がん」と言われたら...』まえがき

瀧澤憲先生の新刊本が発売されました。脱稿した後、瀧澤先生は「まえがき」「あとがき」にそれぞれに12時間費やして延べ24時間かけて作成したとのことです。 原文そのまま掲載します(抜粋なんかしたら不敬ですよね (^_^; ヒルル編集長)

『「子宮がん」と言われたら...』 あとがき  は、>>>こちら

瀧澤憲先生(がん研有明病院)

『「子宮がん」と言われたら...』という本を書くことに決め、いざ書くぞと考えたとき、どういう視点で書くかということが問題だと思いました。難しく書くことは、むしろやさしいけれど、患者さんの視点で書くとなると、どんなことが知りたいか、どんな治療を選びたいかに思いをはせることにしました。 

子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんの二種類がありますが、両方ともにからだのどのがんより確定診断しやすい病気であり、したがって早期にみつかりやすい、すなわち「生き死に」という観点から見ると治りやすいがんと思われます。

しかし、女性にとって重要な生殖(子孫を残す、遺伝子を残す)機能を失う可能性がある病気であり、若い女性にとって「生殖機能を失うこと」は、自分自身の Identity(自我、自尊心、生きる価値など)を揺るがす大問題です。 

子宮頸がんも子宮体がんも、手術、放射線治療、化学療法を駆使すれば、ほかのどのがんより治りやすく、病状(進行状態)に応じた個別化治療もどのがんより進んでいます。患者さんが、最善、最適な個別化治療を希望し、担当医と相談するためには、正確な病状認識が不可欠です。そのための検査、診断、治療方法などについての知識と理解がある程度は求められることになります。

すなわち、適切な個別化治療を選ぶために、病状に見合う最善の局所治療(子宮頸部または子宮体部病巣の治療)と、病気の広がり方を予想した再発予防のための主治療後の補助療法(手術や放射線治療後の化学療法など)についてもある程度の知識理解が求められます。 

どの患者さんにとっても、子宮がんが治らなければ膀胱や直腸などの骨盤内臓器が壊れてしまいます。たとえ洋服で病気を隠すことができても、著しく不都合な症状(尿や便が漏れるなど)に直面すると、QOL(生活の質)が悪くなります。ヒトとしての尊厳を保ち、再発なく有意義な人生を送るために、今や、患者さんやご家族にとって、必死で情報を集め、勉強しないと最善な個別化治療を選べない時代になってきたのです。 

私たち婦人科腫瘍医にとって、婦人科がん治療をする上での大切な心構えと課題は、「生き死に」を議論する前に、「生殖機能を失うかもしれない若い女性の Identity をどのように保つか、あるいは立て直すか」ということと、「骨盤内局所病巣を制御してQOLを良好に保つことを最優先する」ことの二つと考えています。 

本書では、私が、外来や病棟で、患者さんと診断・治療について話し合っている内容について、できるだけわかりやすい文章にしたつもりです。これでも難しいという批判があることは承知していますが、是非ご一読いただければ幸いです。 

2013年  1月 
瀧澤 憲
  瀧澤憲先生(がん研有明病院婦人科顧問)
瀧澤  憲 (たきざわ  けん)先生
婦人科腫瘍専門医
公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 婦人科顧問
詳しくは、>先生紹介

瀧澤憲先生の『「子宮がん」と言われたら...』あとがき



2013年2月、瀧澤憲先生が『「子宮がん」と言われたら...』(保険同人社)を書き上げました。ヒルルでは著作紹介する前に、瀧澤憲先生が、それぞれ12時間かけて健筆をふるった「まえがき」と「あとがき」を掲載します。 

著作の内容、瀧澤憲先生の長年の臨床経験の葛藤、患者さん、この本にたいする想い、お人柄などすべてが凝縮された文章です。 原文のまま、どうぞ。 (「あとがき」からの掲載は私の判断です ヒルル編集長) 




婦人科のがん患者さんの一人ひとりについて、特に進行がんで紆余曲折を経てターミナルケアを迎える患者さんを思い起こすと、皆それぞれにドラマが満載で教えられることが多いです。 

天上から地底に伸びる「希望」のカスケード(滝のようなもの)を大きく登ったり、小さく下ったりの連続の中で、一喜一憂します。難しい手術を上手く乗り越えたお顔、再発後のセカンドライン化学療法で元気を取り戻したお顔は、本当に嬉しそうで、私自身も元気づけられ、勇気をもらえます。 

患者さんには、なるべく真実を伝えたいと考えて婦人科がん診療に取り組んできましたが、それがほぼ実行できたのは後年の20年です。真実を知ること、その上で現実を乗り越えることは普通の患者さんにはつら過ぎるのではないか、マイルドに変換して説明することで闘病意欲を強める方がベターだと考えていたのです。

しかし、婦人科がんの治療は、この40年を振り返ると随分進歩し、成績も良くなりました。そして、進歩した治療方法は必ずしも心身に優しい治療とはいえず、それ自体が負担をともなうため、患者さんと医師は情報をわかち合って、前向きに決定しなければならないのです。 

真実を告げながら、適切な治療方針を決定するのは、「希望」のカスケードが下降するに伴い難しくなります。患者さんの希望する治療を実施することは、私の目からは不適切と思われることが多くなります。私は「同情」と「共感」を区別しながら話すことが大切であると感じます。

「同情」では、「私ならこうするという自己中心的な意図が表出されやすく、患者さんのつらく苦しい気持ちに寄り添えない」ことがあります。「共感」では、「患者さんが何を望んでいるかを意識し、その希望をかなえたいと努めると、患者さんも心を開く」ことが多くなります。患者さんは目の前の選択肢が少ないと、不利益が多い治療を希望することがありますが、「共感」しながら、「(残された時間のうちで)患者さんのやりたいことをするために」いま選択すべきは何かという視点から話し合うと適切な選択ができます。 

「真実を話すこと」「共感して話すこと」をしながら、つらい治療を反復していると、当初は「どうせ助からないのだから」と投げやりな言葉を口にしていた患者さんも、次第に脱皮して、不幸にしてターミナルを迎えても聖女のような微笑みを見せてくれる方が多くなります。

がんが早期に見つかって完治する患者さんも多くなりましたが、治療前には普通に持っていた機能を失わざるを得ません。時に、厄介な後遺症とともに生活していかねばならないこともあります。そのような患者さんに、

私の好きな言葉「Durch Leiden Freude <苦悩を越えて歓喜に至れ> 聴力を失っても作曲を続け、タクトを振ったベートーベンの言葉」と、

ナチスの強制収容所から生還し、『夜と霧 − ドイツ強制収容所の体験記』を著した ヴィクトール・エミール・フランクル の「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに対する希望を捨てない。人は誰でも、固有の生きる意義、意味を持っているのだから」

を贈ります。

 2013年  1月
 瀧澤 憲

『「子宮がん」と言われたら...』 まえがき は、>>>こちら 

瀧澤憲先生(がん研有明病院婦人科顧問)瀧澤  憲 (たきざわ  けん)先生
婦人科腫瘍専門医
公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 婦人科顧問
詳しくは、>先生紹介

瀧澤憲先生 最新情報

卵巣がんに関する取材で大変お世話になった瀧澤憲先生の近況を、おしらせいたします。

取材当時、 がん研有明病院 副院長兼レディースセンター長の重責を務められていましたが、昨年2012年10月より、同院顧問に就任されております。

がん研有明病院での瀧澤憲先生のスケジュールは、 

2013年3月いっぱいまで 月・木曜日が外来、金曜日がセカンドオピニオンです。この3月までは火曜日に手術も行いますが、4月以降は手術の未廻りのみで瀧澤先生は手術には入りません。 4月からは、月・木が外来、火曜日は手術の未廻り、金がセカンドオピニオンとなっています。 そして、水曜日は1日中、飯田橋にある免疫細胞療法の 瀬田クリニック東京 にいらっしゃるとのことです。


 もう一つ最新ニュースです。

先月の2013年2月に瀧澤憲先生の新刊本『「子宮がん」と言われたら...』 が発刊されました。

 
内容は、

子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんがありますが、原因、診断・治療法、好発年代なども異なります。本書では二つのがんについて別個に明らかにし、進行期の考え方、進行期別の治療法について詳しく紹介しています。

お医者さんから聞いた話をもう一度確かめたり、整理するのにも便利、と好評。


是非、ご一読を!(ヒルル編集長) 

 

取材 癌研有明病院 瀧澤先生3回目

癌研有明病院 滝澤先生の取材記事の3回目がアップされました。

今回は,

 「卵巣がんはどのように診断されるの?」

  「チョコレート嚢腫ってがんになる?」

となってます。

取材記事では,癌研有明病院婦人科において、チョコレート嚢腫の大きさによる手術と判断するおおよそのタイミングを載せさせて頂きました。

予防の観点からは,チョコレート嚢腫ができてしまうホルモンバランスの改善も必要です。


瀧澤先生の取材を振り返えると、

ドクターが手術などのアクションを起こすタイミングを知ることができました。

また,最新の統計データや、諸外国の研究者たちの視点などもご説明してくださいました。

これは短絡的に外国の最新情報や研究成果に振り回されることなく、日本の実情や社会的経緯を見据えて慎重に治療が行われていることを,当たり前のことですが,学ばさせて頂きました。

ヒルル編集長

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取材 癌研有明病院 瀧澤先生2回目

「それでは半年後に,また見せに来てくださいね」

 = 「要経過観察」 です!




終始穏やかに懇切丁寧に説明されていた瀧澤先生の話し方が,明らかに変化したときのこと書きます。

良性な腫瘍ではあるが「要経過観察」の状態だった方が,身体の異変に気が付いて病院に来たときには既に遅く,がんがかなり進行していたケースを話されたときでした。

カルテにもシッカリ書かれてあった!「半年後に」であれば,命を落とすことなく助かっていた人が今まで何人もいらっしゃったとのことです。


特に閉経直後に,卵巣がんが多いのにもかかわらず,
(ヒルルユーザーのお母さんたちの世代かと思いますが)

  「やっと月経が終わってせいせいしたのに...」

    と,定期的に行っていた婦人科病院も縁遠くなり,

  「中年太り,か。 この年だもの,ムリもないわね」

    と,思い込もうとしたり,


ついつい受診を数ヶ月から半年以上遅らせてしまうことは,よくあることのようです。

がんに実際かからなければ,がんに関する関心は小さいのも当然と思います。


  卵巣がんは英語で,

   creeping disease (忍び寄る病気)

   silent disease (静かな病気)

  と言われるそうです。


 「知らぬ間に忍び寄って来て,静かに病気を進行させる」

  厄介な病気です。


主治医の先生に,
「また,半年後ぐらいに見せに来てくださいね」と言われたときには,

携帯のスケジュール表や,PCのリマインダーに確実に登録しておきましょう。
病院に保管してあるアナタのカルテには,「要経過観察」と記録されています。
 =半年以上そのまま放っておくのはダメ,な状態であることなんです。


ヒルル編集長


ヒルルに関しては引き続き,がんの専門医の先生・病院を取材してゆきますが,

是非とも皆様,

「お腹に張りを感じてます,ちょっと身体がヘンで心配」などの投稿や,
「受診したけど何でもなかったんでスッキリ」etc.
というようなこともコメントしてい頂けたら嬉しいです。

取材 癌研有明病院 瀧澤憲 先生

今回は,癌研有明病院の 瀧澤 憲(たきざわ けん)先生を取材させて頂きました。インタビューはこちら

瀧澤先生は,同病院のレディースセンター長兼婦人科部長であり,この2009年9月からは副院長にもなられ,『ヒルル』の取材も相当無理な中,社会的大義を受け止めて取材に応じて頂きました。

さて,取材の中身なんですが,

我々スタッフはあたかも Back to School のようでした。


たとえば,「卵巣がんになりやすい人の特徴」という割と具体的な質問を瀧澤先生に訊くと,


産業革命・合衆国独立戦争→欧米の学者の仮説の立て方と日本との違い→日本の開国から高度経済成長及び科学性発がん物質etc.


こうして,歴史背景,欧米と日本との相違点,日本の実情をふまえての欧米の研究調査結果の有効性,ここでやっと質問にフォーカスすることができました。

比較的抽象度の高いところから具体的な対象に到達するやり方,わたしは実に大切なことだと思います。

会社の中でも日々の到達目標に追われていると,なかなか抽象度を上げて思考することが困難ですが,なにか壁にぶち当たって,もがくほど状況が悪くなるときは,このような思考方法を私たちは自然とやっていると,思います。

具体的なものを並べられて,どれか一つを選ばなくてはならないとき,たとえば医師から治療方法をいくつか提示され,それぞれのメリット・デメリットを説明されて選ぶ場合にも当てはまると思います。

左脳的に冷静に判断することも大事ですが,やはり自分自身との対話して「自分はどうなりたいのか」を,具体的なものを選ぶ前に,しっかりと持つことが重要だと思います。



「排卵誘発剤と卵巣がん」について

これについて瀧澤先生は,現状では関連性づけるのは,データ不足としています。


4年・5年・6年と長期にわたって服用しているデータがあるピルと違って,排卵誘発剤は実質数ヶ月という短い期間であり,それをもって関連づけるのは無理があるとの見解です。


もっとも,排卵誘発剤の使用前には卵巣がん他の検診は,当然の如く必要です。
この件について瀧澤先生は,なんと鶏の卵巣がんの米国での研究も引用されて説明してくれました。


BRCA1,2の遺伝子異常

この遺伝子を一番多く持っている人種は,ユダヤ人で約10%ほど。日本人は,欧米人よりは,やや高いとのことでした。近親婚の多さがが原因と考えられています。


このBRCA1の遺伝子異常を持っている場合の乳がんの生涯危険率は80%以上で,卵巣がんの生涯危険率は60%以上というデータがあるそうです。乳がんの場合が100人中80人以上ということですから,非常に高い数値です。


遺伝子の検査をする機関は日本でもあるそうです。

ただ,日本の国民性もあり,こと遺伝子に関してはナーヴァスな事柄でもあります。遺伝子差別等から自らの結婚・出産の機会を閉ざしてしまう恐れもあり,検査後のカウンセリングも必要です。また,個人情報が厳格に守られることも,もちろん必要です。


『ヒルル』では,この部分は軽く触れるに留めました。


瀧澤先生の著作
  「心配しないでいいですよ 再発・転移 卵巣がん」
   真興交易(株)医書出版部(2008年)


この本は,癌研有明病院で婦人科治療を受ける全ての方々が読まれるとのことです。

タイトル中の,「再発・転移」とありますが,予防の観点からも読まれることをお勧めします。

ウラ話としては,瀧澤先生の原稿を易しい口語体に直すのに,編集担当者の方が相当な労力を費やしたそうです。
なんとなくヒルル編集長は察することができます。瀧澤先生のお話の中で欧米の研究者たちが研究論文を書く際の陥りがちな傾向まで説明していただきましたので,,,「卵巣」の本を書くのは、やはり大変だと、婦人科腫瘍専門医の先生方の一致する意見でもあります。

年の瀬のお忙しい中,瀧澤先生及び癌研有明病院の総務課様に,たいへんお世話になりました。