急性ストレス障害とサバイバー・ギルトを乗り越えて - 東北大震災によせて - 保坂隆先生

急性ストレス障害, サバイバー・ギルト, 東北大震災, 保坂隆, 聖路加国際病院 精神腫瘍科
緊急寄稿 東北地方太平洋沖地震によせて
 ー 急性ストレス障害 と サバイバー・ギルト を乗り越えて ー
聖路加国際病院 精神腫瘍科
保坂 隆 March 27, 2011

 震災後2週間が経過しました。依然として続いている余震に放射能漏れも加わり,国民すべてが不安状態に陥っていますが,そろそろ「心のケア」が必要な段階になってきています。

❒ 災害時1ヶ月以内に起こる「急性ストレス障害」 

 もともと精神疾患をもった患者さんたちにとっては,薬が不足していたり通院が困難になったりという点が問題になっています。 また,これまで精神疾患をもっていない方にとっても,この時期には精神的に不安定になってきています。死に関わる今回の地震や津波の被害に遭遇したり目撃するような大きな出来事の後で不安・不眠・興奮・恐怖が生じたり,逆に現実感が消失したり茫然自失となるような精神状態は「急性ストレス障害」と言います。大きな出来事の1ヶ月以内の場合に診断できますので,地震から2週間のこの時期は,まさにたくさんの「急性ストレス障害」の患者さんがいらっしゃることになります。 これは被災地の方々に限ったことではなく,TVを通じてリアルな被害状況を目の当たりにしたり,実際に余震が続いている東日本全体に広く見られることになります。

 ❒ 可能ならば恐怖心が残る場所から遠ざかること

 そして可能なら,恐怖感が残る場所からできるだけ遠ざかることです。町を失った方たちが集団で他の町に移動している場合には,故郷を離れる寂しさはあっても,恐怖感は軽減していきます。そして,恐怖心を呼び戻すような報道番組はもう見たり聞いたりしないということも効果があります。2週間経った今も情報を集めることは大切ですが,そろそろ報道番組から離れてもいい時期だろうと思います。

 ❒ 生きていることに感謝

 この「急性ストレス障害」に加えて,「サバイバー・ギルト(生存者の罪悪感)」も生じます。大きな災害で生き残った人が「自分だけが生き残っていいのか?」とか「周囲の人間を助けられなかった自分が生き残っていいのか?」という罪悪感です。このサバイバー・ギルトに悩む方に対しては,次のことをよく考えて理解していただきたいと思います。

 ①この災害は予測不能で,生き残った人でも大きな喪失をしていること
 ②災害発生時にも人は「怒り」が生じ,そのはけ口がない時には自分に向かうこと

 そして大切なことは、

 ③人は、どんな喪失感に打ちひしがれていても,前に向かって進まなければいけないこと
 ④具体的な支援・復興活動に加わること

 です。是非、皆さんの心に刻んでいただけたらと思います。


 人は生きている限り諦めてはいけません。 生きていることに感謝して,ご自分の日常生活をしっかりと守った上で、自分も復興活動に参加していくことができると思うことで,罪悪感は少なくなっていきます。 いま日本中の人が,自分たちができることを通して被災地の復興を願っています。 支援する側の人たちは,被災地の方たちの元気な姿を見て,触れて,逆に元気をいただいています。 助け合うことの大切さを教えてくださった皆さんをずっと応援していきます。


Dr_HOSAKA.jpg
保坂 隆(ほさか たかし)先生
聖路加看護大学院 臨床教授、聖路加国際病院精神腫瘍科
ご専門は、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)、リエゾン精神医学
 詳しくは、
  ・先生紹介

6. 死を意識して生きると、人生が豊かになる 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

Dr_HIdeki_Onishi06.jpg
ヒルル:人はいつか死ぬのですが、私たちは日々の生活の中で「死」を意識することを敢えてしませんね。やっぱり自分や家族が死ぬのをイメージしたくないですから。
大西先生:そうですね。でも 人生は不条理 なので、いろいろなことが起こるんです。一生懸命に真面目に生きていても、辛い ことは起こります。でも人間は辛いことを乗り越えて 成長 して行くのです。そういうことを頭の隅っこに置いておくと、辛いことに対峙する 心構え ができるかもしれません。難しいことですが、たまに復唱するのはいいかもしれません。

ヒルル:そうですね。いつも考えている必要はないと思いますが、自分の人生をどういう風にクローズしたいのか、ということを頭の隅に置いておくと、自分の生き方が決まるかもしれませんね。
大西先生:死を見つめて生きる と、命は有限、命の尊さ、愛しさ に気付きます。そうすると 人生が豊か になるんです。なぜなら、物事の優先順位 がはっきりし、自分にとって本当に大切なもの が見えてくるからです。本当に大切なものを見分けることができたとき に、人生は豊かでシンプルで迷いのないものになる と思います。

Dr_Hideki_Onishi07.jpg


ライター: 湊 敦子 (Atsuko MINATO)   プロフィール
外資系IT企業で約20年間「働きマン」のように働いていた矢先、43歳の時に右乳がんを健康診断にて発見される。Stage I で、乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検、放射線治療を経て、現在ホルモン療法中。ホルモン療法が一因で、子宮筋腫が急激に巨大化し、3年後に子宮全摘。病気や離婚など、他人から見ると不運や不幸のオンパレードのような人生で、妹によると「病気のスタンプラリー」に参加しているらしいが、本人はうつ状態も克服し、いたって元気。落ち込んでいる友人に「私の人生と交換するぅ?」と問いかけて励ますのが得意。趣味はドラムとフラワーアレンジメント、真面目な主治医を笑わせること。そして最近はストイックな登山。  ブログ:http://ameblo.jp/acco7/

撮影協力: beacon  東京都渋谷区渋谷1-2-5   03-6418-0077

5. 周りの人に出来ること 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:ご遺族の方に対して、周囲の人ができることは何でしょうか?
大西先生:言葉をかけることより、そばにいること、冷静に話を聞くことでしょうか。それから、お節介にならない程度の親切な行為、例えば お惣菜 など持って訪ねるなども、ご遺族の気持ちを慰める と思います。
してはいけないことは、 騒ぎ立てたり責めること 。「 ~した方がいい 」「 ~しなさい 」「 めそめそしちゃダメ 」など、 自分がそうあってほしい という理想の姿を 相手に押し付ける ことです。「 あなたの気持ちはよくわかる 」も NG 。その気持ちは ご遺族以外の方にわかるわけがない のです。

Dr_Hideki_Onishi05.jpg
ヒルル:ご遺族が責められたりすることがあるのですか?
大西先生:実は「 なじられた 」と 傷ついて 、 遺族外来 に来られる方は多いのです。お葬式での花輪の位置、席順、「 どうして早く病院に連れて行かなかったのか 」など、さまざまなことで なじられる ようです。なじる側 が単純に悪いとも限りません。もしかしたらその人にとっても大切な人で、死別の悲しみが ゆがんだ形 ででてきているのかもしれないからです。しかし なじる 方の中には、 自分のプライドや関心事 の方が、遺族の悲しみに優先していることもあります。そのようなことが引き金で親族間の付き合いがまったくなくなることもあります。隠れてお墓参りに行かなければならない人もいます。人間関係と人の気持ちは、非常に複雑。 死 が新たな苦しみと試練 をもたらすことがあるということもまた事実です。



4. 亡くなった方との関係の再構築が必要 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:実際にはどんなタイミングで気付かれるんでしょうか?
大西先生:あるご主人を亡くしたご婦人は、夫がいなくて悲しくて仕方がない、そして次に夫がいないから恥ずかしいという気持ちになり、犬の散歩も買い物も帽子を深くかぶって早朝か深夜、人と会わない生活を続けていました。しかしある時、娘さんに「お父さんはそんなみじめな生き方だった?悲しいのは自分が悲しいだけでしょ?お父さんは立派に病気と闘って死んだ」と言われて目から鱗が落ちたそうです。またある時は、泣いていても笑っていても同じように時は過ぎていく、ということに気付いたそうです。また、別の患者さんは、 Il Divo の美しい広がりのある音楽を聴いて、夫がいなくなったという考え方から、夫は 広い世界のどこかにいる のかも?という考え方へ変わっていきました。

ヒルル:何かに気付くことで、物事を別の角度から見ることができるようになるんですね。
大西先生:そうですね。でも配偶者を亡くすと、自分の人生も終わった、自分の人生には意味がないと頑なに思ってしまうので、立ち直るのは容易ではないんです。時間をかけて 意味の再構成 をしていくことが必要です。 意味のない人生などない ということに気付いて、亡くなった方との 新しい関係性を構築 する、ということです。亡くなった方が自分を後押ししてくれるとか、つながっている というという感覚を抱くことができるんです。

ヒルル:いつか悲しい思い出が違う形に変わる日がくるのでしょうか?
大西先生:娘さんを 卵巣がん で亡くされて 10年 遺族外来 に通院されている方も、いまだに亡くなった子供と同世代の人を見るたびに「 娘が生きていれば・・・ 」と思い出してしまうそうです。でも片付けられなかった娘さんの部屋も、娘さんに送る「 天国への宅急便 」と思って片付けることができるようになりました。 悲しみを完全に昇華する ことは難しいですが、 悲惨な思い出 を少しずついい思い出に変えていくことはできると思います。一足飛びにはいきません。何年もかけて、行きつ戻りつしながらです。 そのお手伝い をするのが、私たちの仕事だと思っています。

Dr_Hideki_Onishi08.jpg

3. いろいろな考え方があるという「気付き」が大切 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

Dr_Hideki_Onishi04.jpg

ヒルル:遺族外来 には、患者さんはどのような症状を訴えてこられますか?
大西先生:慢性的な睡眠障害、罪悪感、絶望感、抑うつ などの症状を訴えられる方が多いです。遠くの地から来る方もいらっしゃいます。なぜなら、遺族の診察を行っているところがあまりないのです。遺族を亡くした病院には行けない、その駅で降りられない といった症状があるために 私たちの病院まで来る人もいます。初診時は四割の方が うつ病 に罹患しています。

ヒルル:大西先生はそのようなご遺族にどのように対応されているのですか?
大西先生:まずお話を聞いて、問題点を明らかにします。 話す という作業は、ご自分の整理です。話すだけ でも気持ちが楽になる効果があります。中立的な立場で、決して批判しないでお話を伺い、適宜「こうするといいかも」といったアドバイスやご提案を行うこともあります。これを 支持的精神療法 といいます。また「話す」という意味では、ご遺族同士が会話できる機会も設けます。同じ気持ちを抱える方たち同士で話し合って気持ちを共有できることは非常に有効です。それから、出来る援助をする、ということをお伝えします。

ヒルル:出来る援助というのは、具体的にはどんなことでしょうか?
大西先生:まず問題点を整理します。 うつ病 がある場合には、その治療を優先します。経済的な問題はソーシャルワーカーと、相続などの問題は法律家と連絡を取り、一つずつ問題を片付けていきます。それから心理的介入といって、「 認知行動療法 」を活用し、患者さんが様々な考え方ができるようにガイドを行うこともあります。

ヒルル:考え方を変える方法について具体的に教えていただけますか?
大西先生:グループで 認知行動療法 を行う時、例えば「『明日、東京地方は大雨です』という文章から、あなたは何を連想しますか?」と質問してみます。「スーツが濡れる」と言う人もいれば、「作物がよく育つ」と言う人もいます。こうして、何を連想するかは人によって違うこと、いろいろな考え方のパターンがある ということに気付いてもらいます。この「 気付き 」が大切です。

2. 配偶者との死別は最大のストレス 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:そもそも、がん患者のみならず、がん患者をサポートする家族も、がん告知の時点から強いストレスにさらされますね。
大西先生:家族は、大切な人を失ってしまうかもしれないという悲しみ(予期悲嘆)を抱えながら、ケアギバー(caregiver)として献身的に振る舞い、自分を抑えがちです。悲しいのに患者には笑顔を向けるという二つの矛盾する立場が、家族の心を余計に つらく します。それ以外にも、経済的な問題(一家の稼ぎ手がいなくなる)や子供の問題(お母さんが患者の場合)などの社会的問題を抱えることになります。また家族の中に潜在していた問題が急に顕在化したり、摩擦が生じたりすることもあります。がん患者の 3-4 割が何らかの精神疾患を併発しますが、実はそのご家族も 1-4 割の割合で 適応障害 や うつ病 などの精神疾患を併発します(調査によって差があります)。そしてご家族が受ける精神的ダメージの大きさも、がん患者のそれとほぼ同程度なんです。一般的に介護している人の免疫機能が低下し、死亡率は上昇すると言われています。ご家族が「第二の患者」と言われる所以です。このようなご家族の心のケアを、家族外来 で行っています。

大西秀樹先生,精神腫瘍科,埼玉医科大学国際医療センター

ヒルル:そして近親者、特に配偶者が亡くなられたりすると、さらに事態は深刻になるんですね。
大西先生:アメリカで行われた人生のさまざまな場面における ストレス度 の調査では、配偶者の死を最大の 100 と数値化しています(図1)。配偶者との死別は、何にも増してストレス度が高いんですね。また54歳以上の男性の調査では、配偶者、パートナーとの死別後 6カ月以内の死亡率が、配偶者のいる場合に比較して約 40% 上昇することがわかっています。また死別後1年以内に 抑うつの兆候 を呈する未亡人は 47% にのぼり、夫がいる女性の8%と比較すると有意に高いことが知られています。そして配偶者との死別が、高齢者における うつ病 発症の最大の 危険因子 と言われています。ここには「子供との死別」という項目はありませんが、そのストレス度と悲しみは配偶者の死に勝るとも劣らないと考えられます。

ホームズとレイの「社会的再適応評価尺度」
  ライフイベント 生活変化単位値
  配偶者の死 100
  離婚 73
  別居 65
  刑務所などへの勾留、服役 63
  近親者の死 63
  自分のけがや病気 53
  結婚 50
  解雇、失業 47
  夫婦の和解(よりを戻す) 45
  退職や引退 45
  家族が健康を害する 44
  妊娠 40
  性生活がうまくいかない 39
  新しく家族のメンバーが増える 39
  仕事上の変更(異動など) 39
  経済状態の変化 38
  親友の死 37
  職種換えまたは転職 36
  夫婦の口論の回数が変わる 35
  1万ドル以上の借金 31


1. 一番厳しい状況に置かれた方々の典型といえる がん患者とそのご家族、ご遺族の心のケアを行う 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

ヒルル:今日は悲しい話題ですが、愛する家族を亡くした方々がどうやったら悲しみと向き合えるのか、大西先生に伺っていきたいと思います。まず先生のご専門を教えていただけますか?
大西先生:私はがん患者とそのご家族、そしてご遺族の心のケアをする 精神腫瘍医 です。病院では「家族外来」や「遺族外来」を設けて、患者さんの他に、そのご家族、ご遺族の心のケアにあたっています。

Dr_Hideki_Onishi02.jpg

ヒルル:大西先生はこれまで多くのがん患者、そのご家族、ご遺族と向き合われてらっしゃったのですね。なぜがん患者をご専門になさっているのでしょうか?
大西先生:日本人の二人に一人ががんに罹患し、三人に一人ががんで死にます。そして、がん は日本人の死亡者数で最も多い病気です。「がん=死」というイメージがあることから、がん告知はその方の人生を根底から覆します。人生計画、家族計画 がすべてご破算になってしまうんです。がんがもたらす痛みは、身体、心、社会的、霊的、すべての局面に及びます。がん患者の家族も患者同様の心の痛みを経験します。配偶者と死別後 うつ病 になったり、後を追うように亡くなられる方 も少なくないんです。ですからがん患者とその家族は、ある意味一番厳しい状況に置かれた方々の典型と言うことができます。ここでの経験が、他の病気や事故、事件で家族を失った方のケアにも役に立つのではないかと考えています。


愛する人を失った悲しみとどう向き合ったらよいのだろう 大西秀樹先生

(BY Atsuko MINATO)

記事によせられたメッセージ
 "がんを患った方、看病をしている方、大切な人を失った方、こうした方々に寄り添って「新たな気付き」へ導いてくれるのが大西秀樹先生とそのチームです。 不安・悲嘆の中にあり出口の無い部屋に閉じこもっておられる方、勇気を出して大西先生のドアを叩いてみてはいかがでしょうか。きっと新たな未来が開けてくるものと思います。"
仲本光一先生(外務省医務官)
 "重いテーマですが、わかりやすく、優しいトーンでまとめられていて、とても素敵な記事だと思いました! 梅シロップやご自宅の菜園で採れた むかご を紹介しているところも、大西先生のお人柄が伝わってくるようで、いいですね!"
川上祥子氏(NPO法人キャンサーネットジャパン 広報担当理事)

toukou_psycho-oncology.jpg
2010年10月、ヒルルに 匿名希望さん、アヲさん のお二人から投稿がよせられました。 愛する家族を亡くした方々が どうやったら悲しみと向き合えるのか、これから 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科教授 大西秀樹先生に 伺っていきたいと思います。

Dr_Hideki_Onishi01.jpg
大西秀樹(おおにし ひでき)先生
埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科教授

コンテンツ:

患者も家族も、まず自分を知ることが大事! 保坂隆先生 interview_7

精神腫瘍医 保坂 隆先生インタビュー (BY Atsuko MINATO)

 患者も家族も、まず自分を知ることが大事!   保坂隆先生 interview_7


ヒルル:実際に患者や家族がパニックから脱出して病気に前向きに取り組むために、どんな治療をされているのですか?

保坂先生: 認知行動療法  が一番役に立っています。これは、悲観的な考えに陥っている状態をカウンセリングなどで修正する治療法です。例えば落ち込みの原因に関して、

・状況:嫌な出来事が起きた時はどんな時か、状況を分析してみる。

・思考:それについて自分はどう考えたか?

・根拠:なぜそう考えたか?

という順序を追って物事を考え、その考え方を修正する、つまり別の考え方ができるようにガイドします。自分を第三人称化 して、その自分に何とアドバイスするかを考えてみてもらったりします。患者も家族も、できるだけ一つの考えにとらわれず、多様な考えを持てることが重要なんです。

がん患者のうつ病に対しての 認知行動療法 はまだ確立されておらず試行錯誤で行っていますが、効果を感じています。また 認知行動療法 の延長としての イメージ療法 や リラクセーション も役立ちます。具体的に言うと、例えば 抗ガン剤 による 予期嘔吐 (まだ薬を投与していないのに考えただけで吐いてしまう)には 吐き気止め も効かないことがありますが、上記の療法や、催眠療法 を使って止めることができます。

 

ヒルル:薬を使わなくてもできる ことがこんなにあるんですね。

保坂先生:そうですね。患者や家族が うつ状態 になった時、なぜそうなったのか、原因は何か、どういう状況の時に必ずそうなるのかなど、問題の根本に気付くようにガイドします。それがわかれば、悪いニュース や ストレス に心構えをして対処していくことができるからです。患者も家族も、自分のことを分析して、自分をよく知ることが大事なんです。

DrHOSAKA005a.jpg

ヒルル:最後にヒルル読者へのメッセージをいただけますか?

On Oct 13, 2010, at 3:59 pm, 
 精神腫瘍医 保坂 隆 (聖路加国際病院) sent a message;

ヒルル読者の皆様へ
グループ療法 という療法が、私の サイコオンコロジー の仕事の中で大きな仕事だったんですが、グループ療法 で成功するのは 99.9% は 女性の患者 なんです。 男性の患者、たとえば 前立腺がん や 肺がん の患者が集まって グループ療法 が成功した、という論文はないんですよ。 また アルコール依存症 においての グループ療法 の成功率はたったの 3割、グループの力は強大 と言えども、その程度なんです。 ところが 乳がん患者 の グループ療法 は 120%力 を引き出せる。
女性は 助けあったり、お互いをケアする のに適した人たち なんだろうと、思っています。女性のもともとの心の強さ を感じます。 
ヒルル のようなサイトに来れば 助け合える、相手を助ける役割が自分にもある、そういう考え方を持てる というのはすばらしいことだと思います。敬意を表します。

 

 やってみよう! 2分でできるリラクセーションの方法

1.目をつぶり、(全行程、目をつぶって行う)、腹式呼吸を行う

2.両手の拳を握って力を入れ、息を吐きながら拳を解く

3.肩を上げ、息を吐きながらストンと力を抜く

4.全身の筋肉に力を入れ、息を吐きながら力を抜く

5.リラックスした姿勢で、「両手がだんだん温かくなる」とゆっくり何度も自分に言い聞かせる

6.今までに行った楽しいあるいは美しい旅行の風景などをいくつか思い浮かべてみる

7.1から6までゆっくり数える、そして7で目を開ける

注)血圧が下がっているので、急に立ち上がらないこと!

 

「実際に保坂先生のコンサルテーションを受けて」  湊 敦子

保坂先生にお話をうかがって、この3年間で乳がんと子宮全摘を経験した私がうつ状態になったのは、決して珍しいことではないのだと思いました。私が患者として保坂先生の部屋のドアをノックしたのは、乳がんの主治医である聖路加国際病院の矢形先生が子宮全摘後にうつ状態に陥った私の精神状態を心配して、私を保坂先生のところへ送ったことによります。強い精神力を自負していた私も、矢形先生に「女性にとって胸や子宮を失ったり傷つけられたりということは、相当な精神的ダメージを伴う。ナメちゃいけない」と背中を押され、受診することになりました。(聖路加国際病院のブレストセンターではチーム医療に力を入れており、ブレストセンター内にリエゾン精神科医(他の診療科と連携しながら患者のメンタル面をケアすることでチーム医療に貢献する精神科医)を配置しています。)

 

保坂先生のもとで、自分を客観的に分析し、自分の性格、癖、傾向を再認識しました。その上でストレス・コーピング(ストレスへの対処の仕方)やリラクセーションの仕方を具体的に学びました。それは自分のことをよく知り、自分をコントロールし、人生に対して前を向かせる作業に他なりません。

また薬に依存せずに自分自身を取り戻すことができることを教えてくださいました。乳がんのホルモン療法で服用しているタモキシフェン クエン酸塩(TAM)と、今年日本でも発売開始されたSNRI(抗うつ剤)は同じ代謝酵素が関与するため、TAMの抗腫瘍効果が阻害される可能性を否定できませんでした。そこでTAMを活かすために早々にSNRIからの脱薬を試み、他の心療内科では2年間服用が必要と言われていたところを3ヶ月の服用のみで脱薬に成功しました。

 

実際の診療は一回30分(頻度は隔週~1カ月、状態によって違う)で、仲良しのオジサンのところへ遊びに行くようなピクニック気分で出かけます。本や資料を読んだりリサーチの宿題が出るので、そのことについて感じたことを話し合ったりします。保坂先生は読んだりリサーチしたことを私の人生と重ね合わせ、自分で積極的に考えさせ、気付かせてくれます。このようにして私の人生の傍らに寄り添い、暗闇から脱出する手助けをしてくださいました。

 

保坂先生のコンサルテーションを受けるには

保坂先生は現在聖路加国際病院のブレストセンターのリエゾン精神科医なので、コンサルテーションを受けるには、聖路加国際病院のブレストセンター/オンコロジーセンターの患者であることが前提となります。しかし今後はさまざまな相談を受けられるように、診療体制を検討中とのこと。

StLuke_Oncology_Centre.jpg

 

敦子 Atsuko MINATO    プロフィール

外資系IT企業で約20年間「働きマン」のように働いていた矢先、43歳の時に右乳がんを健康診断にて発見される。Stage I で、乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検、放射線治療を経て、現在ホルモン療法中。ホルモン療法が一因で、子宮筋腫が急激に巨大化し、3年後に子宮全摘。病気や離婚など、他人から見ると不運や不幸のオンパレードのような人生で、妹によると「病気のスタンプラリー」に参加しているらしいが、本人はうつ状態も克服し、いたって元気。落ち込んでいる友人に「私の人生と交換するぅ?」と問いかけて励ますのが得意。趣味はドラムとフラワーアレンジメント、真面目な主治医を笑わせること。そして最近はストイックな登山。

ブログ:http://ameblo.jp/acco7/

   


患者の家族はどうすればよいのか? 保坂隆先生 interview_6

精神腫瘍医 保坂 隆先生インタビュー (BY Atsuko MINATO)

 患者の家族はどうすればよいのか?保坂隆先生 interview_6


ヒルル:家族の絆が最後まで強まっていくのは、素敵なことですね。

保坂先生:素敵なだけじゃなくて、本当に効果があるんですよ。家族、友人、同僚など患者をとりまく人々から得られるサポートをソーシャル・サポートと言いますが、このソーシャル・サポートのある/なし、量の多さで病気の予後が変わるんです。家族との強い絆や患者同士の支え合いはがんの経過にいい影響を与えますし、主治医とフランクに話せたりソーシャル・サポートのあるがん患者の方が、ない患者より長生きします。家族の思いやりや愛情が、がん患者を助けるんです。

DrHOSAKA007.jpg

ヒルル:でも家族も精神的にも肉体的にも大変な状況ですよね。家族はどうしたいいんでしょう?

保坂先生:そうですね。意外にもがん患者の方が元気で、家族の方がまいっているケースも多いんですよ。一般的に家族の病気を受け入れるスピードは、患者より遅いんです。「私よりも主人をサポートしてあげて下さい。かなりショックを受けてるみたいですから」とおっしゃる乳がん患者が多かったりします。患者の家族は心配と疲労で、免疫機能は低下するし、病気やうつ病になる可能性が高くなっています。そこで患者同様、家族にもリラクセーションを取り入れてもらっています。これは腹式呼吸、筋弛緩法、自律訓練とイメージ療法を使った方法で、自分で自律神経をある程度コントロールすることで、リラックスし、落ち着きを得、よく眠れるようになります。ストレスには許容量があります。許容量を超えて爆発しないよう、ストレスの量を減らしたり、許容量を増やしたり、発散チャンネルを増やしたり、工夫することができます。

 

 患者も家族も、まず自分を知ることが大事  保坂隆先生 interview_7  につづく